生後2か月の赤ちゃんの脳は、猫や木などの写真を見たとき、すでに種類ごとにまとめて反応していました。アイルランドのトリニティ・カレッジ・ダブリンのチームが、起きている赤ちゃん130人の脳を調べた研究で、2026年2月に Nature Neuroscience に載りました。ただ、生き物かどうか、大きいか小さいかの区別は、9か月や大人と比べるとまだ弱いものでした。
どんな研究か
研究したのは、Rhodri Cusack のチームです(O’Doherty ほか)。ダブリンの2つの産院で生まれた赤ちゃんに参加してもらい、生後2か月ごろ(平均2.4か月)に脳の働きを調べました。調べ方は fMRI(脳のどこで血の流れが増えたかを画像にする装置)です。同じ赤ちゃんの一部には、9か月のときにもう一度来てもらっています。比べるために、大人17人も調べました。
赤ちゃんの fMRI は、ふつう眠っているあいだに撮ります。この研究では、起きている赤ちゃんで撮りました。赤ちゃんは柔らかいクッションに寝て、音を防ぐヘッドホンで童謡を聞きながら、装置の天井に映る写真を見ます。写真の課題は1回5分ほどで、多くの赤ちゃんが2回、合わせて10分ほど見ました。起きている赤ちゃんの脳を調べた研究としては、これまでで最大の規模だそうです。
見せた写真は12種類です。猫、カニ、鳥、リス、ゴムのアヒル、食器、柵、食べ物、スーパーの棚、買い物カート、タオル、木で、1種類につき3枚ありました。生き物、小さな物、大きな物がまざるように選んでいます。
赤ちゃんは言葉で答えられないので、脳の反応の形を比べて調べています。写真を1枚見るごとに、脳の多くの点で血の流れがどう変わったかを記録します。36枚の写真のすべての組み合わせで、この反応の形がどれだけ似ているかを計算しました。猫と鳥への反応が似ていて、猫と柵への反応が違っていれば、脳が生き物とそうでない物を分けている、と考えられます。
大人と同じかどうかも、同じやり方で比べています。大人17人にも同じ36枚を見せ、写真の組み合わせごとの似かたの表を作りました。赤ちゃんの表と大人の表がどれだけ一致するかを数字にしています。写真を見分ける AI のモデルとも、同じように比べました。
わかったこと

2か月の赤ちゃんの脳の、物の形や種類を見分ける場所(頭の横から下側にかけての、腹側視覚野と呼ばれる部分)は、写真を種類ごとにまとめて反応していました。反応の似かたは、大人とかなり似ていました。似ている度合いを0から1で表すと、2か月で0.58、9か月で0.65です。
大人とまったく同じではありません。目から入った情報を最初に受けとる場所(後頭部の一次視覚野)では、2か月でも大人との一致は0.79と高めでした。種類を見分ける場所の0.58は、それより低い数字です。仕組みの骨組みはできていて、中身はこれから育っていく段階と考えられます。
区別ごとに見ると、2か月ではまだ弱いものもありました。
| 区別 | 2か月 | 9か月 | 大人 |
|---|---|---|---|
| 生き物かどうか | 0.20 | 0.55 | 0.66 |
| 大きい物か小さい物か | 0.09 | 0.30 | 0.26 |
数字が大きいほど、その区別がはっきり脳の反応に出ています。2か月でも区別はありますが、9か月になると大人に近づきます。
似た色に反応しているだけではないか、という疑問には、研究者も答えています。表の数字は、写真に写った物の大きさ・細長さ・色・形のまとまり具合の4つで説明できる分を、統計で差し引いたあとのものです。それでも、2か月で生き物かどうかの区別が残りました。論文は、2か月の脳にある種類の情報は見た目の単純な特徴では説明できない、と書いています。ただ、差し引いたのはこの4つで、明るさや細かい模様まで調べたわけではありません。私は、今の AI のように特徴をとらえて仲間分けしているのだとしたら、生まれて2か月でそこまでできるのはすごいことだと思います。
おもしろいのはゴムのアヒルで、どの年齢でも、脳は生き物の仲間として反応していました。研究者が決めたのではなく、データからそうなったそうです。
脳の別の場所(後頭部の横側)では、2か月ではまだ種類による区別が見られず、9か月で出てきました。研究者は、脳の場所によって育つ順番が違うと考えています。
AI のモデルとの比べ方では、たくさんの写真で学習させたモデルのほうが、学習させていないモデルより赤ちゃんの脳に似ていました。研究者は、物を見分けるための手がかりは、目に入るものから学べる可能性がある、と書いています。生まれつきなのか、2か月のあいだに学んだのかは、この研究ではわかりません。
チームの Cusack は、赤ちゃんは今の AI のモデルよりずっと早く学ぶ、と話しています。
まだわかっていないこと・弱いところ
起きている赤ちゃんは動くので、データにぶれが多くなります。2か月で写真の課題を使えたのは130人のうち101人、9か月では66人のうち44人でした。同じ赤ちゃんを2か月と9か月で比べると、2か月のときの反応から9か月の反応は予想できませんでした。1人1人の変化を追うには、まだデータが足りません。
写真は12種類だけで、顔や人の体は入っていません。比べた AI のモデルも1種類です。新生児集中治療室で過ごした赤ちゃんも含めて分析していて、その違いは調べていません。
赤ちゃんの脳の研究は、ほかにもあります。2022年に Current Biology に載った米国の研究(Kosakowski ほか)では、2〜9か月の赤ちゃん52人の fMRI から、顔・体・景色によく反応する場所が、大人と同じあたりにあることがわかりました。景色への反応は弱めでした。脳の反応を見る研究のほかに、赤ちゃんが新しい物を長く見ることを使った研究もあります。こちらでは、3〜4か月の赤ちゃんが猫と犬を分けているという結果が、1990年代から出ています。今回の研究は、さらに早い2か月で、脳の反応として種類の区別が見られたというものです。
2か月の赤ちゃんは、目もまだよく見えていません。岐阜市の保護者向けの資料(眼科医が監修)では、視力は生後1か月ごろから育ちはじめ、3か月で0.01くらい、6か月で0.06くらい、1歳で0.2、6〜8歳で大人と同じくらいになるとしています。ぼんやりとしか見えていない時期から、脳は見たものを種類ごとにまとめはじめていることになります。
生活でどう使えるか
この研究は、赤ちゃんの脳の中で何が起きているかを調べたものです。早いうちから写真や絵カードを見せると発達しやすくなるのかは、調べていません。早く覚えさせるために何かを足す、という使い方はできません。
使えるのは、赤ちゃんの見え方を知っておくことです。2か月ごろの赤ちゃんは、ぼんやりとしか見えていなくても、目の前の物を見て、脳の中で仲間分けを始めています。抱っこして顔を近づける、ゆっくり動く物を見せる、といったふだんのやりとりの中で、赤ちゃんは見たものから学んでいると考えられます。
研究者は、この方法がいずれ、発達の特性を早く見つけることにも使えるかもしれないと話しています。ただ、今はまだ研究の段階です。
目の向きがおかしい、物を目で追わない、まぶしがるなど、見え方で気になることがあれば、乳幼児健診や眼科・小児科で相談してください。
子供の発達の段階については『子供の発達段階と心理学~知っておきたい基礎知識』で書いています。
参考リンク
- O’Doherty C, et al. Infants have rich visual categories in ventrotemporal cortex at 2 months of age. Nature Neuroscience, 2026(PMC)
- Two-month-old babies are already making sense of the world(ScienceDaily、トリニティ・カレッジ・ダブリンの発表)
- Nature Asia(日本語の紹介)
- Kosakowski HL, et al. Current Biology, 2022(2〜9か月の赤ちゃんの、顔・体・景色への脳の反応)
- 岐阜市「子どもと健康」第289号『視力の発達』(2023年10月)
アイキャッチ画像: Photo by Linmiao Xu on Unsplash
