覚えたあとに1回運動すると、運動しなかったときより少し覚えていやすくなります。2024年に42件の実験をまとめた研究では、勉強のあとの運動に小さな効果があり、勉強しながらの運動には効果がありませんでした。ただし、効いたのは中くらいの強さの運動で、軽い運動ではむしろ成績が下がっていました。
どんな研究か
紹介するのは、Qazi ほか6人が Frontiers in Cognition に2024年4月に出したメタ分析(同じテーマの研究をたくさん集めて、結果をまとめて計算する方法)です。1回だけの運動が、出来事や覚えた内容の記憶(エピソード記憶)にどう影響するかを調べた42件の実験を集めました。
比べたのは、運動した人としなかった人です。対象は5歳以上で、実験ごとの平均年齢は11歳から85歳まででした。運動は、走る・歩く、自転車こぎ、筋トレなどです。記憶は、単語や絵を覚えてもらい、同じ日から2週間後までのどこかでテストしました。
この研究は、運動のタイミングを3つに分けて計算しています。覚える前に運動したか、覚えている途中に運動したか、覚えたあとに運動したかです。運動の強さ・長さ・種類、年齢、テストまでの日数でも分けて比べました。
わかったこと

タイミングごとの結果は次のとおりです。数字は効果量 d(運動した人としなかった人の平均の差が、ばらつきの何倍かを表す数字)で、0.2で小さい、0.5で中くらい、0.8で大きいとされることが多いものです。
| 運動したタイミング | 効果量 d | 結果 |
|---|---|---|
| 覚える前 | 0.23 | 小さな効果あり |
| 覚えている途中 | -0.04 | 効果なし |
| 覚えたあと | 0.33 | 小さな効果あり |
3つの中では、覚えたあとの運動がいちばん大きな値でした。それでも0.33なので、運動した人の多くがはっきり覚えていられた、という差ではありません。全体として少し覚えていやすくなる、くらいです。実験ごとの結果のばらつきも大きく、効果がはっきり出た実験もあれば、ほとんど出なかった実験もあります。
覚えたあとの運動でも、効いた条件と効かなかった条件があります。
- 強さ:中くらいの強さの運動は d = 0.81 と大きめでした。軽い運動は -0.45 で、むしろ成績が下がっていました(ただし実験は2件だけです)
- 年齢:若い大人は 0.43 でした。高齢の人は -0.94 で、下がっていました(3件)
- テストの形:あとで見せられた中から選ぶテスト(再認)では 0.62 でした。何も見ずに思い出して書くテストでは、はっきりした差は出ませんでした
運動の種類ごとに見ると、走る・歩くだけ、自転車こぎだけでは、はっきりした差は出ていません。勉強のあとならどんな運動でも効く、とまでは言えない結果です。
覚える前の運動にも小さな効果がありました(d = 0.23)。子供では0.70と大きめで、若い大人では0.19でした。勉強しながらの運動は、効果がほぼゼロでした。歩きながら単語帳を見るより、覚えるときは座って覚えるほうがよさそうです。
覚えてから眠ると忘れにくい、という研究もあります。勉強のあとの睡眠については『寝る前の勉強は記憶に残る?2つの実験でわかった睡眠の効果と限界』で詳しく書いています。
ほかの研究でも同じか
2019年に Loprinzi ほかが25本の論文をまとめたメタ分析でも、覚えたあとの運動は効いていました。覚えてから4時間以内の運動で d = 0.47 です。この研究でも、軽い運動では成績が下がっていました。一方で、覚える前の運動ははっきりした効果がなく、勉強中の運動は少し下がっていました。
覚えた直後と4時間後を比べた実験もあります。2016年に Current Biology に載った van Dongen ほかの実験では、絵と場所の組み合わせを覚えたあと、すぐに運動した人、4時間後に運動した人、運動しなかった人を比べました。2日後のテストで成績が良かったのは、4時間後に運動した人だけでした。なぜ4時間後がよいのかは、まだわかっていません。
まだわかっていないこと・弱いところ
著者たち自身が、集めた実験の多くは質が低いか中くらいだと書いています。強さや年齢で分けた結果は、数件の実験だけで計算したものもあります。上の「軽い運動で下がる」「高齢の人で下がる」は、どちらも2〜3件の実験からの数字です。
実験で覚えたのは、単語や絵のような実験用の材料です。資格試験の内容のように、理解しながら何週間もかけて覚えるものに同じ効果があるかは、確かめられていません。実験はどれも1回の運動を見たもので、毎週の運動の習慣が勉強にどう効くかは別の問題です。2013年の Roig ほかのメタ分析では、1回の運動は記憶に効いた一方、何週間も続ける運動の習慣では、はっきりした効果は出ていませんでした。
生活でどう使えるか
運動の時間をわざわざ増やさなくても、すでに予定している運動の前に勉強を入れれば、勉強のあとに運動する順番になります。ジムやスイミングに行く前の30分を、その日の勉強の時間にする形です。
私は、運動を増やさず、ジムやスイミング、移動など、もともとある運動の前に勉強を少し入れることにしました。時間帯は決めず、運動の予定がある日ならいつでもかまいません。
- 運動に出かける前の15〜30分で、その日に覚えたいもの(単語、用語、問題の解き方)を見る
- 運動は、少し息がはずむくらいの強さにする。ゆっくり歩くだけの軽い運動では、研究ではむしろ成績が下がっていました
- 運動の前に覚えたものを、翌日以降に見直して、覚えているか確かめる
夜のスイミングの直前に勉強すると、運動のあとに寝る時刻が遅れやすくなります。夜の運動と睡眠の数値については『夜の運動のあとは睡眠の数値が下がる?約1万5千人のデータと水泳選手の実験』で詳しく書いています。
効果は小さいので、運動の前に勉強しても、勉強の量そのものの代わりにはなりません。もともとある運動の時間を使えるので、手間をかけずに試せるのがこのやり方のよいところです。持病があって運動を控えている人は、医療機関に相談してください。
参考リンク
- Qazi AS, Schmid D, Gridley N, Lambourne K, Daly-Smith AJ, Tomporowski PD. The effects of acute exercise on long-term episodic memory: a systematic review and meta-analysis. Frontiers in Cognition, 2024
- Loprinzi PD, et al. The Temporal Effects of Acute Exercise on Episodic Memory Function: Systematic Review with Meta-Analysis. Brain Sciences, 2019
- van Dongen EV, et al. Physical Exercise Performed Four Hours after Learning Improves Memory Retention and Increases Hippocampal Pattern Similarity during Retrieval. Current Biology, 2016
- Roig M, et al. The effects of cardiovascular exercise on human memory: a review with meta-analysis. Neuroscience & Biobehavioral Reviews, 2013
アイキャッチ画像: Photo by Abhishek Dutta on Unsplash

