UNAM入試のAI監督が破綻、受験者5.8万人が再試験に

図書館で本を読む学生 AI

メキシコ最大の国立大学UNAMが2026年5月から6月にかけて実施した入学試験は、同校で初めて完全リモート形式で行われました。ロックダウンブラウザとAIによるウェブカメラ監視を組み合わせた仕組みでしたが、蓋を開けると高得点者が例年の数倍に急増する異常事態が発覚しました。専門家は受験者の約半数が何らかの不正をした可能性を指摘しており、UNAMは約5.8万人に対面での再試験を命じる事態になっています。

背景と文脈

UNAM(メキシコ国立自治大学)はメキシコ最大にして最も歴史ある国立大学で、学部入学希望者は毎年数十万人規模にのぼります。2026年の入学試験には約16万人が出願し、これまで対面で行っていた選抜試験を初めて完全オンラインに切り替えました。導入されたのは、指定ブラウザ以外の操作を禁止する「ロックダウンブラウザ」と、AIがウェブカメラ映像から不審な挙動を検知する監視システムの組み合わせです。コスト削減や地方在住者の受験機会拡大が狙いだったとみられます。

しかし試験は5月から6月にかけて17日間にわたって開放される形式で実施されたため、先に受験した学生が問題を外部に漏らしたり販売したりする余地が生まれました。オンライン上では、モニターの外側にスマートフォンを置いてChatGPTなど生成AIの回答を参照する方法や、髪の毛でイヤホンを隠す方法、代理受験者を雇う方法まで、具体的な不正テクニックの情報が事前に広く出回っていたといいます。長期間の受験窓口が、結果的に不正情報の拡散を後押しした形です。

120問からなる試験で、過去5年間(2021〜2025年)に110点以上を取った受験者は全体の0.9%にとどまっていましたが、今回は5.5%に達しました。100点以上の割合も3.5%から16.3%へと跳ね上がっており、高得点層だけが不自然に膨らむ結果になりました。統計的に見ても、例年との差はひと目で分かるほど極端なものでした。

技術/ビジネス面

ノートにペンで文字を書いている様子
Photo by Mike Tinnion on Unsplash

UNAMは今回の試験で、AI監督ソフトを2種類契約し、さらに受験者150人につき1人の人間監督者を配置するという二重三重の体制を敷いていました。それでもなお、1件のスコアも「不正なし」として確定できない状況に陥りました。AI専門家のラウル・ロハス氏はNPRの取材に対し、統計モデルからは受験者のほぼ半数が何らかの不正をしていたと推定されるにもかかわらず、実際にシステムが検知できたのはわずか2%にとどまったと説明しています。

AIによる不正検知は、カンニングペーパーを見る、視線をそらす、口パクで会話するといった個別の挙動パターンを映像から検出することには一定の効果がありますが、今回のように試験問題そのものが事前に流出し、複数人で申し合わせて回答するような組織的な不正には対応しづらいという弱点があります。試験問題が17日間という長期にわたり有効だったことも、流出した問題を後続の受験者が参照する時間的余裕を生み、AIの検知精度をさらに下げる結果につながりました。

事態を重く見たUNAMは入学許可の手続きを一時停止し、2026年の受験者だけでなく、2021年以降の合格最低点を基準に入学した学生も対象に含めた対面での再試験を決定しました。対象者は約5.8万人にのぼり、今度は教室に着席し人間の監督者が見守る従来型の形式で実施される予定です。2種類のAIソフトと大量の人員を投じた末に、結局もっとも確実だったのは昔ながらの対面監督だったという皮肉な結末になりました。

これからどうなるか

UNAMの事例は、AIによる不正検知が万能ではないことを大規模かつ具体的な数字で示した点で異例です。他国の大学や資格試験団体も、リモート試験のAI監督導入を検討・拡大している最中であり、今回の失敗は制度設計を見直す材料として広く参照されそうです。特に、長期間開放される試験形式や、問題バンクの使い回しといった運用上の弱点は、AI監視の精度以前に見直すべき課題として浮き彫りになりました。

開発者にとっても示唆は多いといえます。AIによる異常検知システムを設計する際、個別の挙動を検知する精度だけでなく、システム全体を悪用する「回避策」がどこから生まれるかを想定した設計が欠かせません。自社のプロダクトに不正検知や監視機能を組み込む場合も、AIの検知率だけを指標にせず、実際にすり抜けられた事例をどう把握し改善につなげるかという運用フローまで含めて設計する視点が求められます。

まとめ

UNAMの初のリモート入試は、AI監督システムを導入したにもかかわらず大規模な不正を防げず、約5.8万人が対面での再試験を強いられる事態になりました。統計的には受験者の半数近くが不正をした可能性がある一方、AIが検知できたのはごく一部にとどまっています。AI監視の限界と、試験制度そのものの設計を見直す必要性を浮き彫りにした事例です。

参考リンク

アイキャッチ画像: Photo by Usman Yousaf on Unsplash

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