OpenAI、80年来のErdős予想を解決 AIが数学に挑む

数式が書かれた紙のクローズアップ AI

数学者ポール・エルデシュが半世紀以上前に遺した未解決の予想群が、この数カ月でAIによって次々と解かれています。2026年5月にはOpenAIの推論モデルが80年来の「単位距離予想」を反証し、Google DeepMindのAlphaProof Nexusも9つの問題をわずか数百ドルのコストで解読しました。実は成果の多くは大手研究機関ではなく、市販のAIモデルを使う学生や愛好家から生まれています。想定を覆すペースの前に、数学界は証明が急増する新たな課題への対応を迫られています。

背景と文脈

ポール・エルデシュは20世紀を代表するハンガリー人数学者で、生涯に1500本以上の論文を発表し、数百人の共同研究者と組み合わせ論・数論・グラフ理論の分野に膨大な未解決問題を残しました。没後30年近くが経った今も、研究者は「エルデシュ問題」と呼ばれる353件の未解決予想をデータベースで追跡しています。科学ニュースサイトQuanta Magazineの報道によれば、多くは一見単純な問いですが、証明には数十年かけても手が届かないものが少なくありません。

これまでAIによる数学支援といえば、Google DeepMindのAlphaGeometryのように特定分野に特化したシステムが中心でした。汎用のLLM(Large Language Model、大規模言語モデル:大量のテキストで学習し、自然な文章や論理的な推論を行うAIモデル)が本格的な未解決問題に挑めるようになったのは、ここ1年ほどの推論能力の急伸によるものです。回答前に段階的な推論の過程を出力させる「思考の連鎖」と呼ばれる仕組みが、複雑な証明を組み立てる作業に向いていることが分かってきました。

2026年1月には市販のGPT-5.2 Proを使った研究者が、割り算の余りに関する未解決問題「エルデシュ問題728」の解を発見しました。同年5月にはテレンス・タオ氏らがAIの支援を受けて「エルデシュ問題1196」を解く論文を発表しています。著名数学者自身もAIを日常の研究道具として使い始めている点が、これまでのAI数学ブームと大きく違うところです。

技術/ビジネス面

ノートパソコンでソースコードを表示している画面
Photo by Jantine Doornbos on Unsplash

OpenAIが2026年5月に発表した単位距離予想の反証は、平面上にn個の点を置いたとき、距離がちょうど1になる点の組がいくつ作れるかを問う問題です。1946年にエルデシュが提示して以来、正方格子状に点を並べる配置が最適だと考えられてきました。OpenAIの推論モデルはこの前提を覆す構成を発見し、正方格子を上回る点の配置がn^1.014という多項式のオーダーで存在することを示しました。結果はフィールズ賞受賞者のティモシー・ガワーズ氏や組み合わせ論の専門家ノガ・アロン氏ら外部の数学者によって検証され、プリンストン大学のウィル・ソーウィン氏が指数の精緻化まで行っています。

同時期にGoogle DeepMindが発表したAlphaProof Nexusは、Gemini 3.1 Proと形式証明支援系のLean(数式の各ステップを機械的に検証するソフトウェア)を組み合わせたシステムです。9件のエルデシュ問題を解読し、うち2件は56年間未解決のままだった問題でした。証明はLean 4.27で最初から最後まで機械検証されており、1件あたりのコストは数百ドルにとどまるといいます。人手による証明作業に比べ、桁違いに低いコストで検証可能な結果を量産できる点が最大の特徴です。

興味深いのは、こうした成果の多くが大手研究機関だけでなく、一般公開されているAIモデルを使う学生や愛好家からも生まれている点です。専門的な研究チームでなくても、既存のLLMに問いを投げるだけで未解決問題の糸口が見つかる状況が生まれています。

これからどうなるか

テレンス・タオ氏はこの状況を「証明の希少性から豊富性への移行」と表現し、2026年7月の国際数学者会議(ICM)で警鐘を鳴らしました。証明を生み出す速度に対し、それを検証し人間が理解できる形に「消化」する体制が追いついていないというのが氏の指摘です。査読制度や学位認定の在り方も、証明を最初に見つけた人を評価する仕組みから、検証・解説した人を評価する仕組みへと見直しが必要だとしています。

開発者にとっても他人事ではありません。数学の証明探索と同じ「思考の連鎖」を使った推論モデルは、コードのバグ修正やアルゴリズム設計の検証にも応用が広がっています。手元のCIパイプラインに数式検証やロジックチェックを組み込む発想は、今後現実的な選択肢になりそうです。一方で、AIが生成した大量の成果物を誰がどう検証するかという課題は、ソフトウェア開発における自動生成コードのレビュー負荷の議論とも重なる部分が大きいといえます。

まとめ

エルデシュが遺した353件の未解決問題は、AIの推論能力向上によって次々と攻略されつつあります。OpenAIやGoogle DeepMindの大規模研究チームだけでなく、市販モデルを使う学生や個人からも成果が生まれているのが今の特徴です。証明を量産できる時代に入った今、それを検証し人間が理解できる形に整える体制をどう追いつかせるかが、数学界全体の次の課題になっています。

参考リンク

アイキャッチ画像: Photo by Bozhin Karaivanov on Unsplash

タイトルとURLをコピーしました