中国、AIモデルの重みを輸出規制へ 2兆パラメータ超が対象

港に積まれたコンテナとクレーン AI

中国の商務省と科学技術省が10月16日、AI の技術を輸出規制の目録に加える案を出しました。学習の計算量が10の26乗 FLOP 以上、パラメータが2兆以上、または世界の上位10位に入るモデルは、重みを国外に出すのに許可が要ります。意見の募集は11月15日までです。11月2日には米国の業界団体 Cloud Security Alliance(CSA)が解説をまとめ、Hacker News でも議論になりました。Qwen や GLM などの重みを手元で動かしている開発者は、次の版がいつ、どんな条件で出るのかを読みにくくなります。

背景と文脈

中国には、輸出を禁止または制限する技術を並べた目録があります。2020年には、おすすめを出すアルゴリズムが加えられました。TikTok の米国事業の売却話が出ていた時期です。今回の商務省・科学技術省の2026年第48号公告は、この目録に40の技術を足す案です。内訳は AI が23、医薬が5、太陽光発電が12で、14が輸出禁止、26が許可制になります。

AI モデルの重みそのものを中国が輸出規制の対象にするのは、これが初めてです。重みはモデルが学習で身につけた数値のかたまりで、これがあれば誰でも同じモデルを動かせます。これまで中国の AI 企業は重みを公開して世界中で使われてきました。11月2日の Hacker News の質問スレッドでも、Claude や GPT の値上げに備える手として DeepSeek・Qwen・GLM への乗りかえを挙げる人が複数いました。

しきい値の10の26乗 FLOP は、米国が2023年の大統領令と2025年1月の AI 拡散規則で使った数字と同じです。FLOP は浮動小数点演算の回数で、学習にどれだけ計算を使ったかの目安になります。米国の AI 拡散規則は2025年5月に取り消されました。今回、中国が同じ数字を自国の規制に持ちこんだ形です。

技術/ビジネス面

ワイヤーにかけられた南京錠
Photo by Fernando Venzano on Unsplash

案では、大きなモデルは3つの条件のどれか1つに当てはまると許可制になります。対象は重みだけではありません。学習途中の重み(チェックポイント)、ソースコード、モデルの構造、学習や推論を速くするノウハウも入ります。

条件 案のしきい値
学習の計算量 10の26乗 FLOP 以上
パラメータ数 2兆以上
世界での順位 評価の順位や呼び出し回数などで世界の上位10位(輸出する時点で判定)

AI エージェントにも別の基準があります。エージェントは、AI が自分で手順を考えてツールを使い、作業を進める仕組みです。20段階以上の作業を分解でき、分解の正確さが80%以上のもの、60体以上が同時に協力するもの、200以上の外部ツールをつなぐものなどが許可制です。AI でマルウェアを作る技術は輸出禁止、AI で脆弱性を探す技術は許可制になります。

米国の政策研究メディア ChinaTalk の10月21日の分析によると、10の26乗 FLOP を超えた中国のモデルはまだありません。Epoch AI の見積もりでは、一番大きいものでも2×10の25乗ほどです。2兆パラメータの線は Kimi K3、ERNIE 5.0、Qwen 3.8 Max、Qwen3.8-2.4T-A95B の4つがすでに超えています。DeepSeek や Z.ai も1兆前後のモデルを持っていて、次の版で超えると ChinaTalk は見ています。

上位10位の条件は、どの順位表で決めるのかが書かれていません。ChinaTalk は、狭い分野の順位表1つで対象になりうる点と、同じモデルでも時期によって対象に入ったり外れたりする点を指摘しています。今は案の段階ですが、輸出の前に届け出る仕組みはすでに始まっています。目録が正式に決まるまでの間、対象の技術を国外に出す企業は、商務省のシステムで相手先・用途・金額などを先に届け出ます。

開発者として試すなら

日本で中国のモデルを使う開発者が直接届け出をするわけではありません。届け出や許可が要るのは、中国から技術を出す側です。それでも、使い方によっては手に入るかどうかが変わります。商務省の報道官の説明をもとに、使い方ごとの扱いを表にしました。

使い方 案での扱い
海外の利用者が API・アプリ・SaaS で使う 大規模モデルの輸出には当たらない
端末で動く軽いモデル 当たらない
すでにオープンソースや論文で公開済みの技術 規制の対象外
規制対象のモデルを中国の外のサーバーに置いて動かす 許可が必要
新しい規制対象の技術をオープンソースで出す 届け出ればすぐ許可(自動許可)
中国企業が海外の自社データセンターで動かす 自動許可

表から、今ダウンロードできる重みは対象外だとわかります。困るのは次の版です。オープンソースで出すときは自動許可ですが、報道官は「基本的に」すぐ出せると言っていて、遅れる余地を残しています。ChinaTalk は、公開前の届け出で当局が仕様を先に知ることになり、公開を止める手段にもなりうると見ています。

手元で中国の重みを動かしているなら、今のうちに次の3つをしておくと、あとで慌てずにすみます。

  1. 使っている重みの版を固定して、手元に保存します。Hugging Face なら huggingface-cli download <組織名>/<モデル名> --revision <コミットのハッシュ> --local-dir ./models/<モデル名> のように、コミットを指定して取得できます。
  2. 使っているモデルを一覧にします。モデル名、版、入手した日、ライセンス、API か手元で動かしているかを書きます。CSA の解説も、まずこの棚卸しを勧めています。
  3. 次の版が出なかったときの代わりを決めておきます。中国以外の重み公開モデルで、同じ用途に使えるものを1つ試しておくと、乗りかえの手間を見積もれます。

中国に子会社や開発の委託先がある会社は、もう1つ確認が要ります。CSA は、中国の拠点から海外の拠点へのコードの共有も届け出の対象になりうると書いています。これは CSA が届け出の様式から推測したもので、当局の説明ではありません。10月16日以降に中国の拠点から受け取った AI 関連のコードがあるかどうかを、法務の担当者と確かめておくと安心です。

Hacker News では、yorwba さんが、API での提供はモデルの輸出に当たらないと商務省が説明している点を挙げていました。vidarh さんは、自分で動かす重みは提供元が勝手に中身を変えられないので、評価をし直せる分ホスト型より安心だと書いています。版を固定して手元に置いておく理由は、規制への備えのほかにもあるわけです。

これからどうなるか

意見の募集は11月15日に締め切られます。ChinaTalk によると、その3日後の11月18日には、APEC で習近平国家主席とトランプ大統領の会談が予定されています。ChinaTalk は、この案が米国との交渉の材料になりうると見ています。最終版で数字が変わる可能性はありますが、重みを国の管理下に置く方向は変わらないというのが ChinaTalk の見方です。

公開済みの技術は対象外なので、規制が決まる前に大きなモデルを公開しておこうとする動きも考えられます。ChinaTalk も、中国の AI 企業にはその動機があると指摘しています。11月15日までに大きな重みの公開が続くかどうかで、各社の受け止め方がわかります。

開発者にとっては、中国の重み公開モデルを、ずっと無料で手に入るものとして扱いにくくなります。手元の推論環境に Qwen や GLM を入れているなら、今の版で何か月使い続けられるかを見積もり、次の版を前提にした計画は最終版を見てから決めるのが安全です。API で使うだけなら、案の上では影響はありません。

まとめ

中国が、2兆パラメータ以上や世界の上位10位に入る AI モデルの重みを、輸出の許可制にする案を出しました。今ダウンロードできる重みは対象外ですが、次の版の公開には届け出が要ります。重みを手元で動かしている人は、版を固定して保存し、代わりのモデルを1つ決めておくと、規制の行方に左右されにくくなります。案の締め切りは11月15日です。

参考リンク

アイキャッチ画像: Photo by Christian Lue on Unsplash

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