フランスのMistral AIが、約1兆パラメータの大規模言語モデル「Mistral Large 4」の重みを公開しました。今月初めに出したプレビュー版を改良した正式版です。Hugging Faceから入手でき、自社のサーバーでも動かせます。力を入れたのはエージェント型のコーディングとサイバーセキュリティの2分野で、公開モデルの中では複数のベンチマークで首位級の成績を示しました。APIの料金は入力100万トークンあたり0.70ドルです。中国勢が先行してきた公開モデルの競争に、欧州から本格的な対抗馬が加わった形になります。
背景と文脈
ここ1年ほど、重みを公開する大規模モデルの競争は中国の企業が引っ張ってきました。重みの公開(オープンウェイト)とは、学習済みモデルの中身にあたる数値を配布し、誰でも手元で動かしたり追加学習したりできるようにすることです。Mistralが今回の比較相手に選んだのも、Kimi K3やGLM-5.3、DeepSeek V4.1 Flashといった中国発のモデルでした。
Mistralはこの流れに、欧州のインフラでゼロから学習したモデルで応えました。160以上の言語を扱える点も、多言語の欧州市場を意識した設計と見られます。発表ページには、欧州連合サイバーセキュリティ機関(ENISA)や欧州宇宙機関(ESA)、仏銀行大手のCrédit Agricoleなどが推薦の言葉を寄せました。データや計算資源を自分たちの管理下に置きたい「主権」の需要に応える狙いが読み取れます。
ライセンスは「Mistral Ecosystem Open-Weight license」と呼ぶ独自のもので、MITライセンスを一部変えた内容です。利用や改変、追加学習、商用利用は基本的に自由です。ただし、このモデルをAPIとして他社に提供する事業(Model-as-a-Service)を営む場合は、Mistralと別の商用契約を結ぶ必要があります。完全に無条件の公開ではなく、クラウド事業者による「ただ乗り」を防ぐ条件付きの公開と言えそうです。
技術/ビジネス面

Mistral Large 4は、Mixture of Experts(MoE:複数の専門家ネットワークを持ち、入力ごとに必要な一部だけを動かす仕組み)を採用しています。総パラメータは約1兆です。Hugging Faceのリポジトリ名には「A52B」とあり、1回の処理で動くのは約520億パラメータと読み取れます。全体を毎回動かさないため、規模の割に推論コストを抑えられる設計です。
指示に素直に従うモードと、じっくり考える推論モードを1つのモデルにまとめた点も特徴です。推論の深さはLow・Medium・Highの3段階から選べ、既定はHighになっています。簡単な作業はLowで速く安く、難しい課題はHighで丁寧に、と使い分けられます。画像などテキスト以外の入力にも対応しました。
成績はMistral自身の発表値です。Terminal-Bench 4.0(ターミナル上で課題をこなすエージェント能力を測るテスト)では41%を記録しました。プレビュー版の28%から13ポイント伸び、出力トークンは30%減っています。Artificial Analysisのコーディングエージェント指標では48%でGLM-5.3と並び、1課題あたりのトークン数は47%少ない結果でした。BrowseComp(Webを調べて見つけにくい情報を探し当てる力を測るテスト)では84.5%に達しています。
セキュリティ面では、悪意あるサイバー攻撃の依頼を断った割合が平均96.6%でした。エージェントへの攻撃に耐える力を測るB3では97.1%と、プレビュー版の93.3%から上がっています。人がコードの出来を見比べる評価では、評価対象の中でClaude Opus 5.5に次ぐ位置につけました。
APIの料金は、入力が100万トークンあたり0.70ドル、キャッシュ済み入力が0.07ドル、出力が2.10ドルです。Mistralの自社API以外に、OpenRouter、NVIDIAのNIM、Microsoft Foundryでも使えます。自前で動かす場合は、推論エンジンのvLLMやSGLangに対応しています。
これからどうなるか
まず注目したいのは、第三者による検証です。今回の数値はMistralの発表で、比べる相手や条件もMistralが選んでいます。外部の評価がそろえば、中国勢との実際の差がはっきりするでしょう。
開発者にとっての使いどころは2つあります。1つは料金とトークン効率です。同じ課題を少ないトークンでこなせれば、エージェントを何度も回すCIや社内ツールの費用は下がります。OpenRouter経由なら、既存コードのモデル名を差し替えるだけで手元の課題で比べられます。もう1つは自社での運用です。社外にデータを出せない案件では、重みを手元に置ける選択肢が増えます。ただし1兆パラメータ級を動かすには大量のGPUメモリが必要で、個人のPCで試せる規模ではありません。
注意点はライセンスです。自社のアプリに組み込む分には問題ありません。一方、このモデルのAPIを他社に売る形になると別契約が要ります。SaaSの設計段階で、自分のサービスがどちらに当たるかを確かめておくと安心です。
まとめ
Mistral Large 4は、約1兆パラメータのMoEモデルを条件付きの緩いライセンスで公開した、欧州発の大型オープンウェイトモデルです。エージェント型コーディングとセキュリティで公開モデル首位級の成績を示し、料金も入力100万トークン0.70ドルに抑えました。成績はまだ自己申告のため、外部評価を待ちつつ、手元の用途で試して判断するのがよさそうです。
参考リンク
- We’re releasing the weights of Mistral Large 4(Mistral AI)
- mistralai/Mistral-Large-4-1T-A52B(Hugging Face)
- Mistral Large 4 モデルカード(Mistral Docs)
- Mistral Large 4(OpenRouter)
アイキャッチ画像: Photo by GuerrillaBuzz on Unsplash

