米ロボット企業Figure AIが、人型ロボット向けAI基盤モデル「Helix 2.5」を発表しました。事前に訪れたことのない30軒の住宅で、追加のデータ収集や調整を一切行わない「ゼロショット」のまま、部屋の片付けやベッドメイキングなど3種類の長時間作業をこなして見せています。人型ロボットが未知の家庭環境に適応できるかどうかは実用化のカギとされており、今回の実証はその高いハードルを越えた事例として注目されています。工場向けの実証が先行してきたなかで、家庭という不確実性の高い場での成果は数少ない事例です。
背景と文脈
これまでロボット向けのAIは、特定の環境や物体に合わせてデータを集め直したり、微調整(ファインチューニング:学習済みモデルを特定の用途向けに追加学習させる工程)を重ねたりしなければ、性能が大きく落ちてしまうという弱点を抱えていました。配置が固定された工場と違い、一般家庭は部屋の形も家具の配置もばらばらで、ロボットにとって「見たことのない状況」の連続になります。棚の高さや床の色、照明の当たり方といった細かな違いでも、これまでのロボットは想定外の判断ミスを起こしがちでした。
Figure AIは人型ロボット向けの基盤モデル「Helix」シリーズを開発しており、今回発表したHelix 2.5は、この家庭内タスクへの汎化(学習していない状況にも対応できる能力)を大きく前進させたバージョンと位置づけられています。同社は「Index」と呼ぶ大規模な事前学習の仕組みを整えており、日々膨大な人間の行動データを取り込みながらモデルの土台を鍛えているとしています。人型ロボット業界では実験室や工場のデモが中心となりがちななか、未知の住宅30軒という規模でゼロショット性能を具体的な数値とともに公開した例はまだ珍しく、業界内での注目度も高い発表です。
技術/ビジネス面

検証では、掃除・洗濯・寝室の整頓という3つの長時間作業を選び、30軒の住宅で実施しました。具体的には、リビングに散らばった13〜15個のおもちゃをかごに片付ける作業、タオルを畳んでかごに入れる作業、枕を並べて掛け布団の角を整えるベッドメイキング作業です。いずれも家庭ごとに部屋のレイアウトや対象物の形が異なり、単純な繰り返し作業とは言えません。人間であれば当たり前にこなせる作業ですが、初めて訪れた家でロボットが自力で対象物を見つけ、力加減を調整しながら作業を完了させるのは容易ではありません。
Figure AIによると、「Index」による事前学習を土台に使うことで、ゼロショットでの成功率が9%から56%まで向上したといいます。しかも、従来の代表的な作業に比べて、必要な作業専用データはおよそ半分で済んだとのことです。歩行などの移動、硬いものや布のような柔らかいものの操作、両手を使った協調動作、周囲を見て判断する能力まで、単一の基盤モデルから3つの異なる作業へ展開できた点が技術的な要点です。同社はHelixの学習に35億ドル規模の計算資源を投じており、Indexは1秒あたり人間の行動データ約35分相当を新たに取り込み続けているとも説明しています。基盤となるモデルを使い回しながら、作業ごとの追加学習量を抑えられる設計は、開発コストの観点でも意味を持ちます。
これからどうなるか
今回の実証がそのまま量産機の販売につながるわけではありませんが、人型ロボットが「工場から家庭へ」出ていくための大きな関門を越えた点は見逃せません。家庭内労働の自動化は、高齢者の見守りや家事負担の軽減といった社会的なニーズとも直結するテーマです。
開発者にとっては、こうした基盤モデル型のアプローチが今後ソフトウェア開発の現場にも波及し、少ないタスク別データで多様な環境に対応できるAIの設計思想が参考になりそうです。汎化性能を測る指標として「未知の環境でどれだけ成功率が落ちないか」という観点は、ロボット以外のAIエージェントの評価にも応用できる考え方といえるでしょう。基盤モデルを事前に鍛え込み、個別タスクへの適応は最小限で済ませるという発想は、業務システムにAIエージェントを組み込む際の設計方針としても参考になります。
まとめ
Figure AIの「Helix 2.5」は、事前学習の強化によって未知の30軒の住宅でゼロショットの家事タスクをこなし、成功率を9%から56%に高めました。人型ロボットが家庭という多様な環境に適応する力を示した実証実験として、実用化に向けた重要な一歩といえます。今後は住宅の軒数や作業の種類がさらに広がるかが、実用化のペースを測る目安になりそうです。

