米Perplexity AIは2026年7月15日、AIエージェント向けの実行基盤「SPACE」(Sandbox Platform for Agentic Computing Environments)を発表したとSiliconANGLEが報じました。自社のエージェント製品「Comet」および「Perplexity Computer」の各タスクを、AWS製のFirecracker microVM(軽量な仮想マシン技術で、1タスクごとに隔離された実行環境を素早く起動できる)上で独立実行する仕組みです。パスワードやAPIキーはサンドボックス内に保存せず、暗号鍵もユーザー自身が持ち込む設計とし、エージェントの自律性とセキュリティを両立させる狙いがあります。
背景と文脈
AIエージェントは2025年以降、単なる対話型アシスタントから、ブラウザ操作やコード実行まで自律的にこなす存在へと進化してきました。Perplexityのブラウザエージェント「Comet」も、ユーザーの指示を受けてWeb操作を自律的に実行する高い自律性を持つ製品として知られています。こうした自律性の高いエージェントは便利な一方、実行中のコードやWebアクセスがホスト環境やユーザーの認証情報に悪影響を及ぼすリスクを常に抱えてきました。
2026年2月には、複数のフロンティアモデルを束ねて動かす「Perplexity Computer」が登場し、Claude Opus 4.6を中核の推論エンジンに据えつつ19種以上のモデルを使い分ける仕組みを整えました。エンタープライズ市場への展開も進めており、MicrosoftやSalesforceが強みとする業務自動化領域への参入を狙う動きも見られます。
こうした機能拡張と歩調を合わせる形で、実行基盤そのものの安全性を担保する必要性が高まっていました。エージェントがメールやNotion、Slackなど実際の業務システムに触れる以上、1つのタスクの不具合や悪意あるコードが他のタスクやホスト側に波及しない仕組みが不可欠です。SPACEは、この実行基盤のセキュリティという課題に正面から取り組んだ発表といえます。
技術/ビジネス面

Perplexityの公式発表によれば、SPACEの核となるのはAWSが開発したFirecracker microVMによる分離実行です。エージェントが実行するタスクごとに専用のmicroVMが生成され、コード実行やファイル操作はそのサンドボックス内で完結します。タスクが終わるとサンドボックスごと破棄されるため、他のタスクやホスト環境に影響が及ぶことはありません。
認証情報の扱いにも工夫があります。パスワードやAPIキーはサンドボックス内に保存せず、ユーザー自身が管理する形を取ります。暗号鍵もPerplexity側が用意するのではなく、ユーザーが持ち込む方式(BYOK、Bring Your Own Key)を採用しました。エージェントに強い権限を与えつつ、機密情報の管理主体をユーザー側に残す設計です。
エージェント製品「Computer」は、Claude、Gemini、Grokなど19種以上のフロンティアモデルをタスクに応じて自動的に使い分けるオーケストレーション機能を持ちます。Web検索に加え、メール送受信、Notion、Slackといった外部サービスとの連携も可能で、実際の業務フローに組み込める設計です。Perplexityは社内で2ヶ月間SPACEを運用しており、直近1週間だけで125万件のサンドボックス作成と1190万件の再接続を記録したと明らかにしました。この数字は、セッションの一時停止・再開・分岐といった使われ方が実運用で相当な規模に達していることを示しています。
これからどうなるか
SPACEの発表は、AIエージェント業界における競争軸が「モデルの賢さ」から「実行基盤の安全性と信頼性」へと広がりつつあることを示しています。OpenAIやAnthropicも同様のコード実行サンドボックスを提供しており、今後は各社がmicroVMベースの隔離やBYOK方式をどこまで標準化するかが焦点になりそうです。
エンタープライズ領域では、エージェントに業務システムへの深いアクセス権を与える動きが進む分、事故や情報漏えいが起きた際の影響範囲をどう限定するかが導入企業の判断基準になっていくでしょう。SPACEの実運用データが示す再接続の多さは、長時間稼働するエージェントセッションが当たり前になりつつある実態も映し出しています。
開発者にとっても、タスク単位でmicroVMを使い捨てにし認証情報をエージェント自身に持たせない設計は、自社プロダクトで長時間稼働のエージェントを組む際の権限分離設計の参考になります。特に外部サービス連携を伴うエージェントを開発する場合、SPACEのような「ユーザー管理の鍵と使い捨て実行環境」の組み合わせは検討に値する設計パターンです。
まとめ
Perplexityは、AIエージェント向けの実行基盤「SPACE」を発表しました。Firecracker microVMによるタスクごとの隔離実行と、ユーザー管理の認証情報・暗号鍵を組み合わせ、自律性とセキュリティを両立させています。社内運用2ヶ月で週125万件のサンドボックス作成という実績は、エージェント実行基盤の成熟を示す事例といえるでしょう。
参考リンク
- Perplexity launches secure sandbox to make its AI agents secure and powerful
- Secure sandboxes for agents(Perplexity公式ブログ)
- Perplexity takes its ‘Computer’ AI agent into the enterprise(VentureBeat)
アイキャッチ画像: Photo by CHUTTERSNAP on Unsplash

