Visaは5月28日、開発プラットフォームのReplitへの出資と、AIエージェントが自律的に決済を実行できる「エージェント決済(Agentic Payments)」インフラの共同開発を発表しました。AIエージェントとは、ユーザーの代わりに検索・判断・実行を自律的にこなすAIの仕組みのことです。出資額は非公表ながら、VisaのAI対応決済スイート「Visa Intelligent Commerce」と、エージェントが安全に自身を識別する「Trusted Agent Protocol」をReplitに統合し、開発者がAI決済機能をプロダクトへ組み込みやすい環境を目指します。
背景と文脈
決済業界にとってAIエージェントの台頭は、既存のフローを根本から変えうる課題です。従来の決済は「人間がカードを取り出して承認する」ことを前提に設計されていますが、AIエージェントがユーザーに代わってサービスを予約したり物品を購入したりするシナリオでは、そのフローが通用しません。どのエージェントが誰の代理で決済しているかを確認・認証する仕組みが必要になります。
Replitはウェブ上でコードを書いてデプロイできる統合開発環境(IDE)です。2026年3月時点の評価額は90億ドルで、前半年比3倍に急成長しています。Visa社員1,000人以上が業務でReplitを利用しており、両社のパートナーシップの素地がありました。Replitは自プラットフォームへの決済機能統合を検討しており、Visaのエージェント決済構想と利害が一致した形です。
エージェントによる金融取引はすでに動き始めています。RobinhoodがMCP(Model Context Protocol、AIエージェントが外部ツールと連携するためのプロトコル)を使ったAI株式取引のベータを公開したばかりで、Visaの動きはさらに広い商取引一般に向けたインフラ整備として位置づけられます。
技術/ビジネス面

Visa Intelligent CommerceはVisaのAI対応決済スイートで、AIモデルが商取引の文脈を理解して処理を行います。その中核となるのがTrusted Agent Protocolという認証機構です。このプロトコルを使うと、AIエージェントが決済時に「どんな意図で・誰の代理として実行しているか」を決済ネットワーク側に安全に伝えられます。不正なエージェントによる不正利用を検知し、利用者の意図と乖離した決済を防ぐ役割を担います。
Replit側では、開発者がプラットフォームを離れずに決済機能を組み込めるようになる予定です。従来はStripeやPayPalなどのAPIを別途統合する手間がかかっていましたが、Replit内にVisaの決済フローが統合されれば工程が削減されます。Replitはすでに契約200,000ドルまでセルフサービスで締結できる企業向けアクセスを開始しており、スタートアップが機能を素早く試せる体制を整えています。
ただし現時点ではすべてが探索フェーズです。正式なプロダクト発表はなく、まず社内検証や限定パートナーとの試験が先行し、一般公開は段階的に進む見通しとなっています。
これからどうなるか
エージェント決済が普及すれば、経費精算・購買申請・サブスクリプション管理といった定型業務がAIによって自動化されます。たとえばチャットインターフェースで「この月の交通費を精算して」と指示するだけで、エージェントが承認フローを経て振り込みまで完了するシナリオが現実的になります。
開発者にとっては、Visa Intelligent CommerceのAPIが一般公開された場合に備えて、エージェントに決済能力を持たせる設計パターンを今から考えておく価値があります。認証フロー・決済上限の設定・ユーザーへの事前通知といった、エージェント決済固有の要件が発生します。SaaS製品にAIエージェントを組み込んでいるチームは特に、エージェントが他サービスを呼び出して課金を発生させる部分の責任範囲を明確にしておく必要が生じるでしょう。
まとめ
VisaはReplitへの出資とVisa Intelligent Commerceの統合を通じ、AIエージェントが自律的に決済できるインフラの整備を進めています。現時点は探索フェーズですが、Trusted Agent Protocolによる認証機構の構築は、エージェント時代の決済設計の原型になる可能性があります。エージェントに決済を委ねるユースケースを設計する開発者は、この動向を注視すべきでしょう。
参考リンク
アイキャッチ画像: Photo by Towfiqu barbhuiya on Unsplash

