Spotifyは2026年8月4日、3万を超える独立レーベル・ディストリビューターを束ねるライセンス団体Merlinとの提携を発表しました。ファンが参加アーティストの楽曲を使ってAIカバーやリミックスを作れる機能の対象カタログが大きく広がります。同社は2026年5月にUniversal Music Groupとも同様の契約を結んでおり、著作権を巡る係争が相次ぐAI音楽業界の中で「合法的な参加方法」を模索する動きが本格化しています。
背景と文脈
生成AIで音楽を作れるサービスを巡っては、2024年ごろからSunoやUdioといった新興企業が既存楽曲の無断学習を理由にレコード会社から訴訟を起こされる展開が続いてきました。ドイツではミュンヘン地方裁判所がSunoの著作権侵害を認める判断を示すなど、無許諾のAI音楽生成に対する法的な逆風は強まっています。楽曲を学習データとして扱うAI企業と、権利を守りたいレーベルの対立は、今も業界の大きな火種になっています。
こうした対立の一方で、Spotifyは権利者との合意形成を軸にした別路線を選びました。2025年1月にUniversal Music Group(UMG)との複数年契約を締結したのを皮切りに、同年10月にはソニー、ワーナー、Merlin、Believeを含む主要レーベル各社と「アーティストファースト」のAI音楽製品開発で協力する枠組みを発表しています。2026年5月にはUMGが権利許諾の段階に進んだ最初のレーベルとなり、AIカバー・リミックス機能が具体的な形を持ちました。
今回のMerlin参加により、対象カタログはメジャーレーベルだけでなく3万を超える独立系レーベル・ディストリビューターにまで広がります。インディーズアーティストの楽曲も、本人の同意があればAI生成の素材として使えるようになる見込みです。ソニーやワーナーなど他の大手レーベルも、同様の枠組みに続くとみられています。
技術/ビジネス面

新機能では、参加に同意したアーティストの楽曲を素材に、ファンがAIでカバーやリミックスを生成できます。仕組みは「同意」「クレジット表記」「報酬」の3本柱で設計されており、アーティストは自分の楽曲を対象に含めるかどうかを個別に選べます。生成された音源には元アーティストの表示が付き、再生実績に応じた収益がアーティスト側にも配分される仕組みです。Spotifyが自社で「本物のアーティストによる、本物のアーティストのための」機能だと位置づけている点も特徴といえます。
提供形態はSpotify Premiumの有料アドオンとして計画されており、当面は一部ユーザー向けの研究プレビューから始まる見通しです。全カタログの参加は必須ではなく、まずは同意したアーティストの楽曲だけで機能を開始できる柔軟な設計になっています。共同CEOのアレックス・ノルストローム氏は「AIの追い風に合法的に乗る、最初の方法について話している」と述べ、アーティストへの報酬支払いを保証した設計であることを強調しています。
もう一人の共同CEOグスタフ・セーデルストローム氏も「生成AI音楽は自分たちが関わらなくても起きる。しかしこの製品は自分たちなしには生まれない」と語っており、無許諾で音楽を学習するAI企業とは一線を画す立ち位置を打ち出しています。この姿勢は、楽曲データの扱いを巡って訴訟が続く業界において、プラットフォーム側の差別化戦略にもなっています。
これからどうなるか
レーベル側の参加が広がれば、Spotifyの機能はUMGだけでなく主要レーベルの大半を横断する規模になる可能性があります。ソニー、ワーナー、Believeなど2025年10月の枠組みに名を連ねた他社が続けば、対象楽曲はさらに拡大するとみられます。一方で、同意していないアーティストの楽曲は対象外のままで、全アーティストが恩恵を受ける仕組みにはなっていません。この線引きが今後どこまで広がるかが焦点です。
開発者にとっては、Spotifyが採用した「同意・クレジット・報酬」の3本柱が一つの参考モデルになりそうです。生成AI機能を自社サービスに組み込む際、権利者からデータ利用の同意を得て利用実績に応じた対価を還元する設計は、音楽に限らず画像や文章を扱うプロダクトにも応用できる考え方です。著作権リスクを抱えたままAI機能を公開するより、事前に権利処理の枠組みを整える方が長期的な訴訟コストは低く済む可能性があります。
まとめ
Spotifyは2026年8月、独立レーベル連合Merlinとの提携によりAIカバー・リミックス機能の対象カタログを大きく広げました。UMGに続く今回の合意で、同意・クレジット・報酬の3本柱による権利処理モデルがさらに具体化しています。訴訟が相次ぐAI音楽業界の中で、権利者との合意形成を軸にした製品づくりが一つの現実的な選択肢として定着しつつあります。
参考リンク
- Spotify adds Merlin to its AI music remix and covers effort
- Spotify and UMG sign licensing deals to launch an AI tool for ‘fan-made covers and remixes’
アイキャッチ画像: Photo by Yogendra Singh on Unsplash

