Decart、光写実な自動運転シミュレーターOasis 3をAPI公開

cars on road during daytime AI

スタートアップのDecartが、自動運転向けの光写実な走行環境をリアルタイムで生成できる世界モデル「Oasis 3」を発表し、初日からAPI経由で公開しました。テキストプロンプト1行で都市・郊外・悪天候などのシーンを即座に生成でき、競合比「1桁以上安い」とされるコスト($0.02/秒)での利用が可能です。現段階では長時間走行で環境が劣化するなどの制限はあるものの、エッジケース(通常のテストデータには含まれない稀なシナリオ)テスト環境を無制限に生成できる点で自動運転開発の有力なツールになる可能性があります。

背景と文脈

自動運転システムの開発では、現実世界での走行データだけでは網羅できないシナリオの検証が大きな課題です。雪道での急ブレーキ、交差点での見通し不良、歩行者の予測外動作など、頻度は低いが安全上重要なエッジケースをシミュレーションで補う需要は高く、現実データ収集コストを削減するためのリアルな合成環境生成は業界全体の共通テーマになっています。

これまでのシミュレーション環境は3Dゲームエンジン(CARLA、SUMO等)ベースが主流でしたが、グラフィックの現実感やシナリオのバリエーションに限界がありました。これに対し、ニューラルネットワークで「世界の見た目と物理を学習する」世界モデル(World Model)は、より自然で多様な環境を生成できるアプローチとして注目されています。GoogleのGenie 3やWorld LabsのMarbleなど、大手・スタートアップ双方で開発が進んでいます。

Decartは2024年に「Oasis」ブランドで世界モデルの開発を始め、今回のOasis 3は自動運転への特化と大幅なコスト削減を実現した最新版です。

技術/ビジネス面

a man riding a skateboard down a street next to parked cars
Photo by Annie Spratt on Unsplash

Oasis 3は前方1台・側面2台のマルチカメラ構成を物理的に整合したまま同時生成できます。テキストプロンプトから即座に高品質なシーンが生成され、同一プロンプトでも異なる環境がバリエーション豊富に出力されます。技術基盤となるDOS(Decart Optimization Stack)は独自の推論最適化ソフトウェアで、$0.02/秒という低コスト運用を可能にしています。

一方で現段階の制限も明確です。Oasis 3はオートリグレッシブ(自己回帰型:フレームを1つずつ順番に生成する)設計を採用しており、1フレームあたり約8,000トークンを消費します。秒間複数フレームの生成では数百万トークン/秒が必要になり、コンテキストウィンドウがすぐに満杯になるという構造的な問題があります。実際に数分走行すると「ニューヨーク」と指定したシーンが「一般的な西洋都市」に変質し、車が他の車を貫通するなど物理精度の崩れも確認されています。

CEO(最高経営責任者)のDean Leitersdorfは「3カ月後には100人の開発者が100の異なるアプリを構築している」と期待を示しており、すでに10万人超の開発者コミュニティが形成されています。言語モデルにおけるOpenAIの「API先行公開→エコシステム形成」の戦略を自動運転向け世界モデルで再現しようとする構図です。

これからどうなるか

Oasis 3の価値は「無制限のシナリオ生成」にあります。現実世界でほとんど遭遇しないエッジケースを、コスト$0.02/秒で何時間でも生成できる点は既存のシミュレーション環境と比較して圧倒的です。現段階の物理精度や一貫性の問題は、次世代モデルで改善されることが期待されます。

開発者への影響として、自動運転や移動ロボットの開発パイプラインにOasis 3のようなニューラル世界モデルを組み込む動きが広がりそうです。現状の精度では本番評価には不十分ですが、学習データの補完やシナリオ発想ツールとしての活用であれば今すぐ試せる水準です。$0.02/秒というコスト感は、CI/CDパイプライン上でのシミュレーション自動化も現実的にする可能性があります。

競合のGenie 3やMarbleとの技術差は現時点では明確ではありませんが、APIエコシステムの先行が差別化要因になるでしょう。世界モデル分野は2026年後半に向けて複数の主要リリースが控えており、品質・コスト・APIの三軸での競争が激化する見通しです。

まとめ

DecartがOasis 3でリアルタイム光写実シミュレーションをAPIとして公開しました。$0.02/秒の低コストでマルチカメラ環境を生成でき、自動運転のエッジケーステストを大幅に効率化できます。長時間走行での環境劣化など現段階の制限はあるものの、シナリオ補完ツールとして今すぐ試せる段階に達しています。

参考リンク

アイキャッチ画像: Photo by Sandy Ravaloniaina on Unsplash

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