スイスのプライバシー特化テクノロジー企業Protonは2026年6月30日、同社のAIチャットボット「Lumo」をバージョン2.0にアップグレードしました。今回のアップデートでは画像認識・生成機能、複雑な問いへの「思考モード」、そして会話をまたいでユーザーの好みを記憶する「Projects」機能が追加されています。ProtonはChatGPTやGeminiと競合しながらも、ゼロアクセス暗号化(zero-access encryption:サービス提供者自身もユーザーのデータを読めない設計の暗号化方式)による徹底したプライバシー保護を最大の差別化要素として位置付けています。
背景と文脈
ProtonはもともとスイスのCERN研究者たちが2013年に設立したメールサービス「ProtonMail」から始まった企業です。エンドツーエンド暗号化を軸に、VPN、クラウドストレージ、パスワードマネージャーなど複数のプライバシー指向サービスを展開してきました。AIチャットボット市場への参入は、ChatGPTやGeminiが個人データを学習に活用することへの懸念が広がるなかで、オルタナティブとして注目を集めています。
Lumoの初代バージョンはテキストベースの対話に限定されており、機能面ではChatGPTやClaudeと比べて見劣りする部分もありました。しかしProtonの創業者兼CEOであるAndy Yen氏は「ユーザーはもはや強力なAI機能と真のプライバシー保護のどちらかを選ぶ必要はない」と述べており、Lumo 2.0はその証明となると強調しています。AI分野ではOpenAI、Google、Anthropicといった大手が先行していますが、プライバシー規制が厳しいEU圏や、企業の機密データを扱う利用者にとって、サービス提供者すらデータを参照できないゼロアクセス設計は大きな訴求ポイントになります。
また、近年は生成AI利用に伴うデータ漏洩リスクへの意識が企業の間でも高まっています。従業員が業務上の機密を誤ってAIチャットボットに入力する事例が報告されるなか、ログを残さずデータを学習にも使わないLumoは、コンプライアンスを重視する組織にとって現実的な選択肢になり得ます。
技術/ビジネス面

Lumo 2.0の主要な新機能は4点です。まず画像認識・生成機能により、ユーザーは画像をアップロードして内容を解析させたり、テキストの指示から画像を生成したりできるようになりました。ChatGPTのGPT-4oやGeminiが同様の機能を持つなか、Lumoもマルチモーダル(テキストと画像を組み合わせて扱う)対応を果たしたことになります。
次に「思考モード」(thinking mode)は、数学的推論やコードのデバッグ、複雑な分析など段階的な論理展開が必要な問いに対して、回答生成前に内部で推論ステップを踏む機能です。これはOpenAIのo1シリーズやAnthropicのClaudeが採用する推論(reasoning)アプローチと同様の考え方で、単純な回答よりも精度の高い出力を目指しています。
3点目の「Projects」機能は、会話をまたいでユーザーの設定や好みを記憶する永続的なメモリ機能です。ユーザー自身がどの情報を記憶させるかを管理でき、Protonのゼロアクセス暗号化のもとで安全に保管されます。4点目として、レスポンス速度が旧バージョン比で76%向上しており、実用性も大幅に改善されています。料金体系は無料プランに加え、より多くのリソースを利用できる「Plus」と「Professional」の有料プランが用意されています。TechCrunchの検証では、回答の有用性や詳細度においてGeminiやChatGPTと同等水準に達しているとされており、プライバシー保護を最優先にしながら機能面でも主要競合に追いついてきた印象です。
これからどうなるか
Protonはメール・VPN・ストレージを含むプライバシースイート全体とLumoの統合を深めていくとみられます。たとえばProtonMailの本文をLumoで要約したり、ProtonDriveに保存したドキュメントを参照して回答を生成したりするような連携が将来的に実現すれば、プライバシーを意識したオールインワン環境が整います。EU AI法(EU AI Act:EUが2024年に制定したAI規制法)が段階的に施行される2026年以降、データ処理の透明性を企業に義務付ける流れが強まるため、Protonの設計思想はより有利に働く可能性があります。
開発者の視点では、Lumoが提供するAPIが将来的に公開された場合、ユーザーの入力データを学習に使わないAIバックエンドを自社プロダクトに組み込む選択肢が生まれます。現時点ではAPI提供は未発表ですが、プライバシー要件の厳しいヘルスケアや法務など垂直市場向けのSaaSを開発しているチームにとって、動向を注視する価値があります。個人ユーザーとしても、AIに機密性の高いテキストや画像を渡す際のリスクを低減する現実的な手段として、Lumo 2.0は試す価値があります。
まとめ
Protonは2026年6月30日にLumo 2.0をリリースし、画像認識・生成、思考モード、永続メモリ機能を追加しました。レスポンス速度も76%向上し、ゼロアクセス暗号化を維持しながら主要AIチャットボットと機能面で肩を並べた点が最大の意義です。
参考リンク
アイキャッチ画像: Photo by Elena Mozhvilo on Unsplash

