Microsoftは10月21日、IT管理大手ConnectWiseのクラウドバックアップを狙った侵害について、分析レポートを公開しました。中国政府系とみる攻撃者Storm-0940が、オープンソースのAI侵入テスト基盤ARTEXで攻撃を自動化したといいます。盗んだアプリの認証情報を使い、2,250を超える顧客環境に毎分約2,900回のサインインを試みました。標的の選定から管理者権限の取得まで、3時間かからなかった例もあります。AIエージェントが攻撃の速さを人の対応の限界まで押し上げた事例として、防御側に見直しを迫っています。
背景と文脈
Storm-0940は2021年から活動し、さまざまな業界でデータを盗んできたグループです。主な手口はパスワードスプレー(よくあるパスワードを多数のアカウントに少しずつ試す攻撃)と、ネットに公開されたアプリの弱点を突く方法でした。侵入後は既存のOAuthアプリ(他社サービスに権限を委ねて連携するアプリ)に認証情報を足し、Microsoft Graph(Microsoft 365のデータを操作するAPI)でメールなどを読みます。
Microsoftによると、この手口自体は以前と変わりません。変わったのは速さです。同グループは9月初めごろからARTEXを使い始めました。10月10〜14日には8組織の327アカウントを狙い、15万1,000回を超えるログイン失敗を記録しています。11日のピークには毎分2,900回の失敗がありました。
10月15日にはConnectWise Cloud Backupの侵害が報じられ、翌16日に同社が最初の告知を出しました。告知に載ったIPアドレスの一つは、先のパスワードスプレーの発信元と一致しています。CrowdStrikeは、韓国の金融機関への攻撃にもARTEXが使われたと報告しました。そちらでは多要素認証のない弱いシステムが狙われています。
技術/ビジネス面

ARTEXは、本来は防御の強さを試すための侵入テストツールです。Go言語で書かれ、複数のAIエージェントが役割を分けて動きます。AIエージェントとは、目的を受けて手順を組み立て、ツールを使って実行まで進めるAIのことです。使うAIモデルは選べ、偵察からデータの持ち出しまでをほぼ人手なしで進めます。見つけた資産や弱点はグラフ状に整理し、次の手を選ぶ材料にします。
今回の攻撃では、ConnectWiseのアプリの資格情報が鍵になりました。顧客はバックアップのために、このアプリへMicrosoft 365の広い権限を与えています。攻撃者はその資格情報で、利用者のログインなしに各社の環境へ入れました。マルチテナント(1つのアプリが多数の企業の環境にまたがって動く形)のアプリが持つ信頼を、そのまま悪用した形です。
侵入後はGraphで偵察を行い、アプリに新しい資格情報を足して居座りを図りました。グループや特権ロールの変更も試み、あるConnectWiseの管理アプリが自らに全体管理者の役割を割り当てた例もあります。4つのアプリ資格情報で、4分足らずの間に200回超のサインインも記録されました。
Microsoftは、自社製品の弱点や侵害が原因ではないと強調しています。ほとんどの攻撃は失敗に終わりました。それでも、エージェントは休まず動き、複数の侵入経路を同時に試します。人が警報を見てから動くまでの時間が、ほとんど残らないのが実情です。
これからどうなるか
Microsoftの推奨策は具体的です。ConnectWiseのアプリ連携は正式な復旧手順が出るまで止めたままにし、証拠を残すため、いきなりアプリを削除しないよう求めています。表示名ではなくアプリIDで全テナントを調べ、少なくとも10月15日以降のログを確認します。サービスプリンシパル(アプリ用のアカウント)のサインインは、10月1日まで遡るのが望ましいとしています。
開発者にとっては、自社のSaaSが顧客環境に持つ権限を見直すきっかけになります。マルチテナントのアプリに必要以上のGraph権限を与えていないか、資格情報の追加や権限の付与を検知できているかが問われます。アラートを人が見てから止める運用では、毎分数千回の試行には追いつけません。自動で遮断する仕組みが前提になっていくでしょう。
ARTEXは複数の地域の攻撃者が使っているとMicrosoftはみています。オープンソースの防御ツールが攻撃に転用される流れは、今後も続きそうです。
まとめ
Storm-0940はAI侵入テスト基盤ARTEXを使い、ConnectWiseのアプリ資格情報で2,250超の環境を高速に狙いました。手口は従来どおりでも、速さが桁違いになっています。広い権限を持つ連携アプリの棚卸しと、自動で止める検知の仕組みが急がれます。
参考リンク
- Storm-0940 uses ARTEX agentic AI in ConnectWise supply chain compromise(Microsoft Security Blog)
- ConnectWise Trust Center Advisories
- Unknown threat actor uses ARTEX to target South Korean finance(CrowdStrike)
- Chinese hackers spied on thousands of companies after breaching IT giant ConnectWise(TechCrunch)
アイキャッチ画像: Photo by Christian Englmeier on Unsplash

