AIベンチマークのスタートアップVals AIが、Andreessen Horowitz主導のシリーズAで4000万ドルを調達しました。法律・金融・コーディングなど専門分野でAIが実務レベルの成果を出せるかを検証するサービスで、テスト内容を非公開にすることで「対策済みのベンチマーク」を防ぐ狙いがあります。売上は前年比8倍に伸びており、AI企業の性能競争を測る新たな物差しとして存在感を高めています。
背景と文脈
LLM(Large Language Model、大規模言語モデル)の性能を測る従来のベンチマークは、MMLU(57分野の知識・推論を問う代表的ベンチマーク)のように問題内容が公開されているものが主流でした。しかし問題が公開されていると、AI企業がそのテストに合わせてモデルを訓練し、スコアだけを意図的に高める「対策済み」の状態を作れてしまいます。実際の業務で使い物になるかどうかとは無関係に、ベンチマークの数字だけが独り歩きする問題が、業界内で以前から指摘されてきました。
Vals AIは2024年の創業以来、この課題に取り組んできました。テスト内容を非公開にしたまま、法律・金融・コーディング・サイバーセキュリティ・バイオセキュリティといった専門分野で、AIモデルが実際にプロと同等の成果物を作れるかを検証するサービスを提供しています。抽象的な知識を問うのではなく、実務で求められる水準の仕事をこなせるかどうかを測る点が特徴です。
創業者でCEOのラヤン・クリシュナン氏(25)は、Palantirでのインターン経験やMicrosoft、スタンフォード大学のAI研究室での勤務を経て、学生時代にVals AIを立ち上げました。2025年のシード資金調達は8VCとBloomberg Betaが主導し、今回2026年8月のシリーズAでAndreessen Horowitzが4000万ドルを投じたことで、AI評価という比較的ニッチな分野への投資家の関心の高さが浮き彫りになっています。
技術/ビジネス面

Vals AIのビジネスは急成長しています。売上は前年比で8倍に伸び、社員数も年初の8人から25人に増加、今後さらに10〜15人を採用する計画だといいます。急成長の背景には、AI企業自身がVals AIの評価結果を対外的な説明材料として使い始めている事情があります。クリシュナン氏は、Vals AIが提供するベンチマークや評価が「AI企業が自社の実力を公に示す際の中心的な手段になっていく」と述べています。
これは、AIモデルの性能競争が新しい局面に入ったことを示しています。これまでは各社が独自に公開ベンチマークのスコアを競い合ってきましたが、そのスコアの信頼性そのものが疑われる状況になったことで、第三者による非公開テストの結果が、企業間の性能比較における「共通言語」としての役割を担い始めているのです。第三者評価という立ち位置は、監査法人が企業会計を検証する構図とも似ており、AI業界に一定の客観性をもたらす仕組みとして期待されています。
一方で、非公開テストにも限界はあります。テスト内容が公開されないため、外部の研究者や開発者がVals AIの評価方法自体を検証しにくいという構造上の課題です。評価基準の透明性と、対策されにくさを両立させる難しさは、この種の第三者評価サービスに共通する課題として残り続けるでしょう。
これからどうなるか
今後、Vals AIのような専門分野特化型の評価サービスは、企業がAIモデルを選定する際の実務的な判断材料として重要性を増していくと見られます。特に法律や金融のように、間違った出力が重大な結果につながる分野では、公開ベンチマークのスコアだけでなく、独立した第三者評価の有無が導入判断を左右するようになりそうです。
開発者にとっても示唆があります。社内で複数のAIモデルを比較検討する際、汎用的な公開ベンチマークのスコアだけを鵜呑みにせず、自分たちの実際のユースケースに近いテストを非公開で用意し、モデルごとの実力を検証する姿勢が重要になります。Vals AIの手法は大掛かりですが、その発想―「本番に近い非公開のテストで実力を測る」―は、個々のチームがAIモデルを選ぶ際にもそのまま応用できる考え方です。
コーディング用途に限っても、公開されたHumanEval(コード生成の正答率を測るテスト)のスコアが高いモデルが、必ずしも自社の複雑なコードベースで役立つとは限りません。自分たちのリポジトリに近い課題で独自の評価セットを作っておけば、モデルを乗り換える際の判断材料としても長く使い続けられます。
まとめ
AI評価サービスのVals AIがAndreessen Horowitz主導で4000万ドルを調達しました。非公開のテストで実務レベルの性能を測る手法が支持を集め、売上は前年比8倍に成長しています。公開ベンチマークの限界が意識される中、独立した第三者評価の重要性は今後さらに高まりそうです。

