元OpenAI最高技術責任者(CTO)のMira Murati氏が率いるThinking Machines Labが、ベンチャーキャピタルのAccel主導で約10億ドル規模の資金調達に向けて交渉していることが分かりました。想定される評価額は400億ドルで、前回調達時の120億ドルから大きく上昇しています。一方、同社が過去に目指していた500億ドルという水準からは下がっており、AI業界内での期待値の変化がうかがえる動きです。
背景と文脈
Thinking Machines Labは2025年初め、Mira Murati氏がOpenAIを離れて設立した企業です。同氏は複数の元OpenAI研究者を引き連れて創業しており、当時から業界の注目を集めていました。シード投資の段階で早くも20億ドルという、スタートアップの初期調達としては歴史的な規模の資金を調達し、Andreessen Horowitzが主導、NvidiaやGoogle Ventures(GV)、Lightspeed、Conviction Partnersといった有力投資家が名を連ねています。
このときの評価額は120億ドルでした。創業からわずか1年ほどで評価額が3倍以上に膨らんだ計算になり、AI基盤モデルを手がける企業への資金流入がいかに旺盛かを物語っています。一方で同社は一時、500億ドルという評価額での調達も模索していたとされ、今回の400億ドルという水準は、その目標からは後退した形です。生成AI企業全般への投資熱がやや落ち着きつつある中、市場が期待値を調整している兆候とも読み取れます。
Murati氏の経歴も注目を集める理由の一つです。OpenAIでCTOを務めていた同氏は、2024年秋の退任後、独自にAI企業を立ち上げる道を選びました。ChatGPTの急成長を技術面で支えてきた経験を持つ経営者だけに、投資家からは「ポストOpenAI」の有力候補として早くから資金が集まっていました。
技術/ビジネス面

Thinking Machines Labは、重みや構成が公開されている「オープンウェイトモデル」であるInklingをリリースしています。加えて、企業や開発者が自社データに合わせてモデルを調整するファインチューニング(あらかじめ学習済みのモデルに、特定用途向けの追加データで再学習させる手法)を行うためのプラットフォーム「Tinker」を提供しており、利用に応じた計算コストの課金で収益を上げています。同社の年間経常収益(ARR)はすでに1億ドルを超えたとされ、評価額に対する倍率としてはかなり高い水準です。
一方で組織面では逆風もあります。共同創業メンバーだったLilian Weng氏とLuke Metz氏は、いずれもThinking Machines LabからOpenAIへ復帰しており、立ち上げメンバーの離脱が目立ってきました。TechCrunchの報道によれば、今回のAccel主導ラウンドはこうした逆風がありながらも、同社の技術力と収益成長への評価が調達を後押ししている形です。
これからどうなるか
OpenAIやAnthropicなど大手フロンティアラボに人材と資金が集中する中、Thinking Machines Labのように独自路線でオープンウェイトモデルと有償プラットフォームを組み合わせる企業がどこまで存在感を保てるかは、今後のAI業界の勢力図を占ううえで注目材料です。
開発者目線では、Tinkerのようなファインチューニング専業プラットフォームが今後どう進化するかも気になるところです。自社の用途に合わせて既存の大規模モデルを手軽に調整したい開発チームにとっては、フロンティアラボ自身が提供するAPIとは別の選択肢が増えることを意味します。価格や使い勝手次第では、社内のRAG(検索拡張生成:手元のデータを検索してAIの回答に反映させる仕組み)基盤の一部をTinker経由のカスタムモデルに置き換える判断も出てきそうです。
資金調達が成立すれば、Inklingのような開発中のオープンウェイトモデル群のアップデートペースが上がる可能性もあります。特定用途に絞った軽量モデルを低コストで調整して使いたい開発者にとっては、選択肢が広がる形になりそうです。
まとめ
Thinking Machines Labの資金調達交渉は、評価額こそ当初目標から下がったものの、創業からのわずかな期間で数倍の評価を得ている点に業界の期待の高さが表れています。人材流出という逆風の中でも収益基盤を伸ばせるかどうかが、今後の成長を左右しそうです。フロンティアラボ以外の選択肢として開発者からも注視されそうです。
参考リンク
アイキャッチ画像: Photo by Katie Harp on Unsplash

