AIモデルやAIエージェントを狙う攻撃から企業を守るセキュリティ企業HiddenLayerが、シリーズB(本格的な事業拡大期に行う資金調達ラウンド)で1億ドルを調達したと発表しました。年間経常収益(ARR:毎年繰り返し得られる収益の指標)はこの1年で10倍以上に伸びており、企業がAIを本番導入するのに合わせてAI専用のセキュリティ需要が急拡大していることを裏付けています。
背景と文脈
HiddenLayerは、AIモデル本体やAIエージェント、それらを組み込んだ業務フローを、敵対的攻撃(adversarial attack:AIの判断を誤らせるよう意図的に細工した入力を与える攻撃)や脆弱性、悪意あるコードの注入から守るツールを提供しています。従来のサイバーセキュリティが守ってきたサーバーやネットワークとは異なり、AIモデルそのものや、AIが自律的に判断・実行するエージェントの挙動を保護対象にしている点が特徴です。
製品ラインには、AI資産の把握(ディスカバリー)、実行時の防御、模擬攻撃によるテスト、AIサプライチェーン(学習データや外部モデル、ライブラリなど、AIを構成する部品の調達経路全体)のセキュリティ確認などが含まれます。最近では、プロンプトインジェクション(AIへの指示文に悪意ある命令を紛れ込ませて誤動作させる攻撃)やエージェントの操作、悪意あるツール利用への対策にも対応範囲を広げています。
技術/ビジネス面

今回の資金調達はDelta-v Capitalが主導し、Ten Eleven Ventures、Morgan Stanley、マイクロソフトのコーポレートベンチャー部門であるM12、Booz Allen Hamiltonなどが参加しました。金融機関やコンサルティング大手、大手テック企業のベンチャー部門が名を連ねている点から、AIセキュリティを事業リスク管理の一部として捉える動きが金融・防衛関連業界にも広がっていることがうかがえます。
業績面では、年間経常収益がこの1年で10倍以上に成長し、金額は「数千万ドル」規模に達しています。成長の9割以上が新規顧客の獲得によるものだといい、既存顧客の追加購入よりも、新しくAIセキュリティ対策を必要とし始めた企業の流入が業績を牽引しています。主要顧客は金融サービス業や大手テック企業のほか、米国防総省や情報機関も含まれており、なかには週間アクティブユーザーが7億人を超える「大手フロンティアモデル提供企業」も顧客に含まれるとされています。
市場調査会社Gartnerの推計によれば、企業のAIセキュリティツールへの支出は2026年に28.3億ドルに達し、前年から83%増加する見通しです。2027年にはさらに47.8億ドル規模まで拡大すると予測されており、AI導入の広がりに比例してセキュリティ投資も急激に膨らんでいる構図が見えます。
HiddenLayerのCEOであるChris Sestito氏は「推論は結局のところ推論だ」と述べ、従来型の機械学習から生成AI、さらにAIエージェントまで、根本的な事業転換をすることなく既存技術を横展開できたと説明しています。
これからどうなるか
自社プロダクトにLLMやAIエージェントを組み込む開発チームにとって、AI特有の攻撃手法への対策は、もはや先進的な取り組みではなく標準的なセキュリティ要件になりつつあります。特にプロンプトインジェクションやエージェントの誤操作は、AIに外部ツールへのアクセス権限を与えるほどリスクが大きくなるため、開発初期のアーキテクチャ設計段階から防御策を組み込む発想が求められます。
Gartnerの支出予測が示すとおり、AIセキュリティは今後もIT予算の中で存在感を増していく分野です。自社でAIエージェントを本番稼働させている、あるいはこれから稼働させる予定がある開発者は、HiddenLayerのような専業ベンダーの動向を通じて、どのような攻撃手法が実際に想定されているのかを把握しておく価値があるでしょう。
投資家の顔ぶりも示唆的です。銀行や防衛関連のコンサルティング企業がこぞって資金を投じている背景には、規制業界を中心にAIモデルの安全性を第三者が検証・保証する仕組みへの需要が強まっている実情があります。今後は、AIモデルの調達契約そのものに、こうしたセキュリティ監査の要件が組み込まれるケースも増えていきそうです。
まとめ
HiddenLayerはシリーズBで1億ドルを調達し、ARRは1年で10倍以上に成長しました。AIセキュリティ市場全体も2026年に前年比83%増と急拡大しており、AIエージェントの安全な運用は開発者にとって避けて通れないテーマになっています。
参考リンク
アイキャッチ画像: Photo by Elena Mozhvilo on Unsplash
