スタンフォード大学の研究チームが、生成AIの普及が若手の雇用に与える影響を分析した最新の調査結果を公開しました。ADP(米国最大級の給与計算サービス企業)の給与データをもとに、22~25歳の若手就業者を職種ごとに追跡した結果、AIの影響を受けやすい職種では、若手の雇用が同年代の平均より19%少ないことが分かりました。一方で経験豊富な社員にはこうした落ち込みが見られず、影響は新卒・若手採用という「入り口」に集中している格好です。
背景と文脈
生成AIの普及は2022年末のChatGPT公開から本格化し、企業は文章作成やコーディング、カスタマーサポートなど幅広い業務でAIツールの導入を進めてきました。当初は「AIは補助であり、人の仕事を奪うより効率化する」という見方が優勢でした。しかし研究チームは今回、単発の統計ではなく、数百万人規模の雇用者データを継続的に追跡する形で、実際の労働市場の動きを検証しています。
同チームは2025年にも同様の分析を発表しており、当時の若手雇用のギャップは13%でした。今回の最新版レポート「Canaries in the Coal Mine? Six Facts about the Recent Employment Effects of Artificial Intelligence」では、このギャップが19%まで拡大したことが示されました。研究を主導するエリック・ブリニョルフソン氏らは、傾向がこの1年で弱まるどころか、むしろ強まっている点を強調しています。
対象となったのは、ソフトウェア開発者やカスタマーサポート担当者、プログラマー、受付担当者など、生成AIによる自動化の影響を受けやすいとされる職種です。これらの職種には、AIがルーティン業務や定型的なやり取りを代替しやすいという共通点があります。一方、AIが人の作業を補完する形で使われている職種では、雇用は横ばいか、むしろ増加している傾向も確認されました。
技術/ビジネス面

今回のデータで注目すべきは、雇用の落ち込みが「解雇の増加」ではなく「新規採用の抑制」から生じている点です。既に働いている若手社員が大量に解雇されているわけではなく、企業がそもそも新卒や若手を採用する枠を絞っている、という構図です。Stanford Digital Economy Labの分析によると、AIの影響を受けやすい職種に絞ると、若手の雇用は年平均で約3.8%ずつ減っています。逆にAIの影響が小さい職種では、若手雇用はむしろ年2%程度増えており、両者の差は年を追うごとに開いています。
特に目立つのがソフトウェア開発者です。22~25歳のソフトウェア開発者の雇用者数は、2022年のピーク時から約20%減りました。コード生成AIが定型的な実装作業を肩代わりできるようになったことで、経験の浅いエンジニアに割り振られてきた「練習台」的なタスクそのものが減っている可能性があります。Ars Technicaの報道でも、この傾向はカスタマーサポートや受付業務など、AIが定型対応を代替しやすい職種全般に共通すると指摘されています。一方で、経験豊富な社員の雇用は同じ職種でも安定しており、AIの影響は経験の少ない層に偏って表れています。
これからどうなるか
研究チームは、経済全体で見ればAIによる大規模な雇用破壊の証拠はまだ見られないと強調しています。今回の変化は、労働市場全体というより、新卒・若手採用という「入り口」に集中して表れている点が特徴です。ブリニョルフソン氏らは、この傾向がこの1年で弱まるどころか強まっていると指摘しており、今後も注視が必要な状況です。
開発者にとって直接関わるのは、キャリア初期に任される「小さく安全なタスクをこなしながら経験を積む」という育成モデルが揺らいでいる点です。コード生成AIが定型実装を肩代わりする分、駆け出しのエンジニアは早い段階から設計判断やレビュー、要件の解釈など、AIが苦手とする領域で価値を示す必要が出てきます。採用する側のチームでも、若手にどんな種類のタスクを残し、どう育てるかという方針そのものを見直す動きが広がりそうです。
まとめ
スタンフォード大学の調査は、生成AIの影響が経済全体というより22~25歳の若手層、特に新規採用の入り口に集中して表れていることを示しました。ギャップは1年で13%から19%に拡大しており、ソフトウェア開発者など特定職種での落ち込みが目立ちます。経験者の雇用は安定しており、影響は世代間で非対称に広がっています。
参考リンク
- AI is hitting entry-level jobs hardest, Stanford study finds (Ars Technica)
- Canaries in the Coal Mine? Six Facts about the Recent Employment Effects of Artificial Intelligence(Stanford Digital Economy Lab)
- No Widespread Displacement, but the AI Employment Gap for Young Workers Has Widened to 19%(Stanford Digital Economy Lab)
アイキャッチ画像: Photo by Google DeepMind on Unsplash

