英ロンドンのAIラボInherentは、AIエージェント「Faraday(フェアデー)」の実験結果を発表しました。AIエージェントとは、指示を受けて計画立案から実行、検証までを自律的にこなすソフトウェアを指します。Faradayは科学論文の再現実験で、AnthropicのClaude Opus 4.8とOpenAIのGPT-5.5を上回りました。注目されるのは、Faradayが比較的小型なオープンモデル(重みが公開されており誰でも手元で動かせるAIモデル)のQwen 3.6上で動いている点です。パラメータ数はおよそ270億で、両社のフロンティアモデルよりはるかに小規模とされています。
背景と文脈
InherentはTechCrunchの報道によると、Google DeepMind出身の4人が創業したラボです。チーフサイエンティストはEdward Hughes氏です。ほかにLouis Kirsch氏、Kaloyan Aleksiev氏、Tantum Collins氏が創業メンバーに名を連ねています。2026年5月にステルスモードを解いて活動を公開し、すでにシード資金として5000万ドルを調達しました。
従業員は約12人という小規模な体制です。ロンドンのキングスクロス地区にオフィスを構え、出社を前提に働くスタイルを取っています。リモート主体のAI企業が多いなかで、あえて対面での協業にこだわっている点も特徴です。少人数のチームで検証を重ねながら製品を磨いてきたと見られます。
Inherentが掲げる目標は、「研究センス」を持つAIを作ることです。研究センスとは、どの実験が検証する価値を持つか、どう設計すれば意味のある結果が得られるかを判断する勘を指します。Faradayはこの能力を実証するために開発されたAIエージェントです。
技術/ビジネス面

Faradayが取り組むのは、既存の科学論文に書かれた実験結果を、答えを一切与えられない状態で独立に再現するタスクです。論文の主張を鵜呑みにせず、自分で実験を設計し直して同じ結果にたどり着けるかを試します。仮説の立て方から検証手順の組み立てまで自分で判断する必要があり、単純な文章生成や質問応答より、はるかに難しい作業です。
Inherentはベンチマーク(AIモデルの性能を一定の基準で測るテスト)結果を示しました。この再現タスクでは、FaradayがClaude Opus 4.8とGPT-5.5を上回りました。この2つは各社が持つ最新かつ最大規模のフロンティアモデルです。
驚きなのは、Faradayのパラメータ(モデル内部にある学習済み数値の集合で、多いほど表現力が高いとされる指標)数が270億にとどまる点です。Claude Opus 4.8やGPT-5.5は非公開ながら、はるかに巨大なモデルとされています。
Hughes氏は、フロンティアエージェントに勝った結果そのものより、それをどう作り上げたかというプロセスの方が興味深かったと述べています。小型モデルでも、タスクに合わせたエージェント設計と学習の工夫次第で、規模の大きいモデルに対抗できることを示した格好です。
これからどうなるか
この結果は、AIエージェントを開発する際のモデル選定に一石を投じます。最大・最新のフロンティアモデルAPIに頼る必要は、必ずしもありません。オープンウェイトモデルとタスク特化の設計を組み合わせれば、コストを抑えつつ高い性能を狙える可能性があります。大規模モデルはAPI利用料がかさみがちですが、270億パラメータ級のモデルは手元のサーバーでも動かしやすく、開発者の選択肢が広がります。
自社のエージェント開発でモデルを選ぶ際、常に最上位のフロンティアモデルを選ぶ必要はなさそうです。タスクに合わせたハーネス(AIモデルを取り巻く実行環境や指示の設計)を作り込む方向性も検討する価値が出てきました。検証タスクや社内ツールのように用途が絞られる場面では、小型モデルの採用でコストと応答速度を改善できる余地があります。
Inherentは年内に従業員を20〜25人程度まで拡大する計画です。現在の約12人からほぼ倍増となる規模で、開発体制の強化を急いでいます。今後も同様のベンチマーク結果や新プロダクトの発表が続く見通しで、研究センスを競う流れがどこまで広がるか注目されます。
まとめ
DeepMind出身者が創業したInherentのAIエージェントFaradayは、270億パラメータの小型オープンモデルQwen 3.6上で動いています。それでも科学論文の再現タスクでは、Claude Opus 4.8とGPT-5.5を上回りました。モデルの規模よりエージェント設計が性能を左右する可能性を示す事例です。
