OpenAIがChatGPTのMacデスクトップアプリに、パソコン上の操作履歴を記憶させる新機能「Computer History」を追加しました。8月13日から展開が始まり、Pro・Business・Enterprise向けに提供されています。ただし記憶した内容がディスク上に暗号化されずに保存される設計であることも分かり、便利さと引き換えのリスクが議論になっています。
背景と文脈
ChatGPTはこれまで、ユーザーが入力した会話の履歴は覚えていても、パソコン上で実際に何をしていたかまでは把握できませんでした。前のセッションで開いていたファイルや、少し前に調べていたウェブページの内容を尋ねても、毎回「さっき編集していたあのファイルの続きを」と説明し直す手間が生じていたわけです。Computer Historyは、この文脈の断絶を埋める狙いで作られた機能で、ChatGPTだけでなくコーディング支援ツールのCodexでも活用できます。
似た発想の機能としては、Microsoftが自社OS向けに提供する「Recall」があります。Recallは数秒おきに画面全体のスクリーンショットを撮り続け、後から検索できるようにする方式を採りましたが、常時キャプチャされること自体がプライバシー面で強い批判を浴び、提供範囲や仕様の見直しを迫られた経緯があります。OpenAIは今回、その反省を踏まえてか、画面キャプチャに頼らない別の設計を選びました。実際、社内的にはComputer Historyは「Chronicle」という名称で開発されていたとも報じられており、今回の正式公開に合わせて名前も改められています。
技術/ビジネス面

Computer Historyはスクリーンショットや画面録画、マイク音声を一切取得しません。代わりに、macOSのアクセシビリティ機能を使ってクリックやキー入力、アプリの切り替え、対応サイトでの操作といった「操作イベント」だけを記録します。この操作イベントの流れをもとに、期間ごとにChatGPT・Codexの一時セッションが要約を作り、それを「メモリ」としてMac本体に保存する仕組みです。プライベートブラウジング中の操作は記録対象から除外されます。
OpenAIは要約に使った一時ファイルをサーバー側で処理後に破棄し、法令で必要な場合を除いて保持せず、モデルの学習にも使わないとしています。機能自体は既定でオフになっており、Business向けでは管理者が有効化しない限りメンバーは使えません。ユーザー側でも記録対象のアプリ・サイトを選んだり、一時停止したり、タイムライン項目を個別に確認・削除したりできます。一方で9to5Macの報道によると、生成されたメモリファイルはMac上にプレーンテキストのMarkdownとして暗号化せず保存されており、同じmacOSアカウントで動く他のアプリから読み取れてしまう可能性が指摘されています。なお、EU圏・英国・スイスでは当面提供対象外です。
これからどうなるか
開発者にとっては、直前まで触っていたファイルや調べていたドキュメントをChatGPTやCodexが自動的に把握してくれる分、プロンプトに状況説明を書く手間が減る可能性があります。コーディング中に「さっき見ていたエラーログの続きを直して」といった曖昧な指示でも意図が伝わりやすくなりそうです。複数のターミナルやブラウザタブを行き来しながら作業するデバッグ作業のような場面では、この文脈の自動引き継ぎが特に効いてきそうです。ただし暗号化なしでログが残る設計である以上、共有端末やCI環境、社内規定が厳しい業務PCでの有効化には慎重な判断が必要です。導入する場合は対象アプリ・サイトを絞り込み、タイムラインの定期的な削除を運用ルールに組み込むのが現実的でしょう。
Recallが批判を浴びた教訓を踏まえた設計とはいえ、ローカルに残る記録の管理は結局ユーザー任せです。同種の「操作コンテキスト記憶」機能は他社にも広がる可能性があり、保存方式の透明性が今後の選定基準になりそうです。特に企業のセキュリティ担当者にとっては、従業員のPC上にどのような形式でログが残るかを事前に把握し、社内ポリシーに反映させる作業が新たに発生することになります。
まとめ
OpenAIはChatGPT Mac版に操作履歴を記憶するComputer Historyを追加しました。画面キャプチャを使わない設計は評価される一方、メモリが暗号化なしで保存される点は開発者・企業ユーザーとも運用面で注意が要ります。
参考リンク
アイキャッチ画像: Photo by Elena Mozhvilo on Unsplash

