非営利団体Current AIが、特定企業に依存しない「誰でも無料で使えるAI基盤」の構築を進めていると米メディアTechCrunchが報じました。ワールドワイドウェブのように、公共のインフラとしてAIを整備するという構想です。すでに日本のSakana AIとも提携しており、少数言語や特定地域のコミュニティ向けにAIを届ける取り組みを各地で広げています。
背景と文脈
Current AIは2025年2月、Martin Tisne氏によって設立された非営利団体です。フランス政府からの1億ドルの初期出資を皮切りに、Ford財団やMacArthur財団、Google DeepMind、Salesforceなどからも資金を集め、総額4億ドルの資金確保にこぎ着けています。2026年1月にはMozillaでAI戦略を率いていたAyah Bdeir氏がCEOに就任し、団体の運営を主導しています。
Bdeir氏は「AIが本当にあらゆる人の生活を変える技術になるのなら、公共の代替手段が存在しなければならない」と述べています。営利企業が主導するAI開発では後回しにされがちな、少数言語や低所得地域のニーズに焦点を当てる姿勢が、この団体の存在意義になっています。道路や上下水道のような公共インフラと同じ発想を、AIという新しい技術領域に持ち込もうとしている点が特徴です。
技術/ビジネス面

Current AIは直近で400万ドル弱の助成金を4つの団体に配分しました。ケニアのMasakhaneは、健康・農業・教育の分野で50以上のアフリカ言語のAI用データセットを構築しています。レバノンのInstitute for Worldmakingはアラブ文化史をコミュニティ自身が管理できる形でデータベース化しており、ブラジル・アマゾンのPortal sem Porteirasは先住民コミュニティと共同で、データの主権を保ったままオフラインで動くAIツールを開発しています。
インドでは、政府の言語部門Bhashiniと連携し、22のインド言語に対応したオフライン動作の小型端末「Suno Sutra」を開発しました。ケニアのAfrican Internet Rights AllianceはAIの説明責任を検証する監査ツールを手がけています。いずれもクラウド接続を前提とせず、当事者のコミュニティがデータを自ら管理できる設計を重視している点が共通しています。通信インフラが十分でない地域でも動く「オフライン前提」の設計は、大手クラウド事業者のAPIに依存しがちな一般的なAI開発とは対照的です。
2026年7月にはジュネーブで開かれたAI for Good Summitで、オープンソースのチャットボット「Alpha Chat」も公開しました。Hugging FaceやMozilla、MITメディアラボなど10団体が参加し、わずか7週間で仕上げたプロジェクトだといいます。特定企業のクラウドに依存せず、誰でも導入・改変できる形で公開されている点が、通常の商用チャットボットとの大きな違いです。さらに日本のSakana AIとは、日本語とグローバルサウスの言語・文化を支える共有のオープンソースAI基盤を共同開発する提携も結んでいます。
これからどうなるか
特定の大手クラウドやモデル提供企業に依存しないAI基盤という発想は、自社サービスの多言語対応をコスト重視で検討する開発者にとっても参考になります。データがコミュニティの手元に残る設計や、オフラインで完結する仕組みは、プライバシー要件が厳しい業界や通信環境が不安定な地域向けの製品を作る際のヒントになりそうです。マイナー言語向けのモデルやデータセットが公開されれば、自前で収集しにくいコーパスを補う選択肢としても活用できるでしょう。
Sakana AIとの提携は、日本語処理の質を左右する基盤づくりに海外の非営利資金が関わってくるという点で注目されます。今後、Alpha Chatのようなオープンソース成果物が実際にどこまで普及するかが、この団体の構想の実効性を測る指標になりそうです。一方で、政府や財団からの助成金に頼る運営形態は、資金が長期的に継続するかという持続性の課題も抱えています。
まとめ
Current AIは総額4億ドルの資金を背景に、営利企業に依存しない公共のAI基盤づくりを世界各地で進めています。少数言語やデータ主権を重視する姿勢は、AI開発の別の可能性を示す試みといえます。
参考リンク
- Nonprofit Current AI is racing to build the World Wide Web of AI, free for all(TechCrunch)
- Masakhane公式サイト
アイキャッチ画像: Photo by Shubham Dhage on Unsplash
