米国の連邦エネルギー規制委員会(FERC:Federal Energy Regulatory Commission、電力・天然ガスなどのエネルギー流通を規制する独立行政機関)は2026年6月18日、6つの主要地域系統運用機関に対して「AIデータセンターなどの大規模負荷がタイムリーかつ秩序正しく送電網に接続できる体制を整えよ」と命じる指示を満場一致で発行しました。FERC議長のローラ・スウェット氏が「国家の優先事項」と位置づけたこの措置は、通常数年かかる規制立案プロセスを迂回した異例の対応で、AIインフラの電力不足という現実が規制にまで波及したことを示しています。
背景と文脈
この措置の背景には、米国の電力グリッドへの接続申請が急激に膨らんでいるという現実があります。2023年末時点で系統接続の申請容量が既設発電所の総容量を超えており、接続承認までの遅延が深刻化していました。2035年までにデータセンターの電力需要は現在の約3倍に増加するという試算があり、グリッド容量の限界が AIインフラ拡張のボトルネックになっています。
2025年10月、エネルギー長官のクリス・ライト氏がFERCに対して「大規模負荷の接続に関する改革を検討するよう」指示を出したことが今回の命令の起点です。FERCは通常、業界からの広範な意見募集を含む数年単位の「規則制定」プロセスを経て新規制を導入しますが、今回は各グリッド運用機関への個別指示(ショウコーズ命令)という形で、より迅速な対応を迫る手法を選びました。
対象となったのはPJM(米国東部・中部)・MISO(中西部)・SPP(南西部)・CAISO(カリフォルニア)・ISO-NE(ニューイングランド)・NYISO(ニューヨーク)の6機関です。テキサス州を管轄するERCOTは連邦規制の対象外のため含まれていません。
技術/ビジネス面

FERCが各グリッド運用機関に課した期限は2段階です。30日以内に「現在と将来の大規模負荷を賄うだけの発電量が確保できているかどうか」を報告すること、そして60日以内に「既存の接続規則が十分かどうかを説明するか、改定案を提出すること」が求められています。また、固体変圧器や超電導送電線といった次世代技術の導入検討も指示に含まれています。
電気料金への影響はすでに現れています。卸売電気料金は過去5年比で最大267%上昇しており、企業はオンサイト発電(自社敷地内の発電設備)への依存を深めています。大手テック企業が原子力や再生可能エネルギーの独自調達を進める動きはこの流れの一環です。
FERCの命令は接続手続きの改善を求めるものですが、発電容量そのものの不足には対応していない点が限界として指摘されています。接続枠を広げても電力が足りなければ意味がなく、送電網の構造的な増強が必要という議論は続きます。
これからどうなるか
今回のFERC命令は、AIインフラの拡張が物理的なエネルギーインフラの整備スピードに依存するという事実を政府が公式に認めたことを意味します。米国内でAIデータセンターを計画・運営する企業にとっては、グリッド接続の見通しが今後1〜2年で具体化する可能性があります。
日本など他国への波及という観点では、米国の規制動向が先行事例として参照されることが多く、経済産業省や電力広域的運営推進機関(OCCTO)がデータセンター向けのグリッド接続ルールを整備する議論を加速させる可能性があります。AIモデルの学習・推論に使うGPUクラスタの電力消費は今後も増大するため、インフラコストの見積もりにグリッド接続費用を明示的に含める設計が開発組織にも求められてくるでしょう。
まとめ
FERCが6大グリッド運用機関にAIデータセンター向け接続改善を命じたことで、電力インフラがAI産業の成長を左右する主要変数として政府レベルで認識されました。30〜60日以内の各機関の対応内容と、その後の規則改定がAIインフラのコストと展開速度に直接影響します。
参考リンク
- AI data centers just got a government-mandated fast lane to the grid – TechCrunch
- FERC Data Center Orders Accelerate Grid Connection – American Action Forum
- FERC Orders Grid Operators to Rework Data Center Power Rules – ENR
アイキャッチ画像: Photo by Raisa Milova on Unsplash

