Anthropicは2026年6月2日、AIによる脆弱性発見プログラム「Project Glasswing」を15カ国以上の約150機関へ拡大すると発表しました。同プログラムでは同社の最高性能モデルClaude Mythosへのアクセスを提供し、電力・水道・医療・通信・ハードウェアといった重要インフラのセキュリティ検査に活用します。対象となるパートナー組織のシステムへのサイバー攻撃が成功した場合、1億人以上に影響が及ぶ可能性があるとAnthropicは述べています。
背景と文脈
Project Glasswingは2026年4月にAnthropicが発表したセキュリティ特化プログラムです。「ガラスの翼」を意味するコードネームが示すように、AIが「見えない脆弱性を照らし出す」という意図を込めた命名とされています。立ち上げ当初は米国内の数十機関を対象としていましたが、今回の拡大で国際規模のプログラムへと成長しました。
背景にあるのは、重要インフラに対するサイバー攻撃の深刻化です。発電所や病院のシステムは長年にわたって運用されてきたレガシーコードを抱えることが多く、脆弱性の発見が人手では追いつかない規模になっています。AIを活用した自動脆弱性スキャンはその解決策の一つとして注目されており、Anthropicだけでなく、OpenAIも「GPT-5.5-Cyber」と呼ばれるセキュリティ特化モデルを展開しています。
Claude Mythosは現時点でAnthropicが公開しているモデルのなかで最も高い能力を持つとされており、コーディング・論理推論・長文解析の3分野で先行するモデルに対し特に高いスコアを示しています。Project Glasswingへの採用は、セキュリティ診断という高度な専門タスクにこそ最高性能のモデルが必要という判断からです。
技術/ビジネス面

今回の拡大でプログラムに参加する国は、オーストラリア・カナダ・フランス・ドイツ・イタリア・スイス・オランダ・スペイン・ベルギー・スウェーデン・インド・日本・ニュージーランド・韓国を含む15カ国以上です。参加組織にはOkta(アイデンティティ管理)、Samsung、SK Hynix、SK Telecom、そしてNATOやEUのサイバーセキュリティ機関ENISAが名を連ねています。
プログラムの仕組みとして、参加組織はClaude Mythosをセキュリティチームのツールとして利用できます。具体的には、ソースコードや設定ファイルを入力としてMythosが潜在的な脆弱性箇所を特定し、修正のための具体的な指示を出力します。従来の静的解析ツール(コードを実行せずに構文・パターンを検査するソフトウェア)と組み合わせることで、人間のセキュリティエンジニアが優先的に対応すべき問題を絞り込む効率化が期待されています。
Anthropicは今回の拡大を、IPO申請や65億ドルのシリーズH調達と並行して発表しています。商業的な成長とセキュリティへの社会貢献を両立するという姿勢を外部に示す狙いもあると見られます。また、OpenAIがGPT-5.5-Cyberを展開しているなかで、Anthropicがいち早く重要インフラへのアクセスを確保したことは、企業向けセキュリティ市場での競争優位を作る動きとも読めます。
これからどうなるか
今後は参加組織の知見が蓄積され、重要インフラ特有の脆弱性パターンをAnthropicがモデルの学習に活かすことが予想されます。医療システムの古いコードや電力制御ソフトウェアの特殊な構造を学習したモデルは、汎用的なセキュリティツールよりも高い精度を発揮する可能性があります。
日本のSK Telecomや韓国のSK Hynixが参加している点は、アジア太平洋地域での展開が進んでいることを示しています。国内企業のセキュリティチームにとっても、今後Glasswing経由でClaude Mythosへのアクセスが広がる可能性があり、動向を注視する価値があります。
開発者・セキュリティエンジニアの視点では、Glasswingパートナーへの参加が認められれば、Claude Mythosをコードレビューパイプラインや継続的インテグレーション(CI/CD)フローに組み込む道が開けます。API経由での脆弱性スキャン自動化はすでに一部企業が試験的に取り組んでいる領域で、重要インフラ特化モデルの精度向上はそのユースケースを一段と実用的なものにするでしょう。
まとめ
Anthropicが展開するProject GlasswingはClaude Mythosを核に15カ国150機関へ拡大し、電力・水道・医療などの重要インフラ防御に組み込まれ始めました。OpenAIとの競争が激化するなか、Anthropicはセキュリティという社会的インパクトの大きい分野でのポジションを固めています。参加組織の拡大とモデルの精度向上が相互に作用し、AIセキュリティの実用化が加速しそうです。
参考リンク
- Anthropic Scales Claude Mythos to Critical Infrastructure in 15+ Countries (TechCrunch)
- Project Glasswing (Anthropic)
アイキャッチ画像: Photo by Shubham Dhage on Unsplash

