米国の Thinking Machines Lab が、11月5日に言語モデルの Inkling 2 Small を公開しました。パラメータは全体で5,940億あり、1語を処理するたびに動くのはそのうち170億です。いまは同社の学習用 API の Tinker から使えて、料金は100万トークンあたり入力0.30ドル・出力1.00ドル。7月に出た初代 Inkling と比べると、出力は約5分の1の値段です。重みは Apache 2.0 で公開する予定ですが、外部の安全テストが終わってからになり、手元にはまだ落とせません。
背景と文脈
Thinking Machines Lab は、OpenAI で CTO を務めた Mira Murati 氏が2025年に立ち上げた会社です。最初の製品は Tinker で、モデルを自分のデータで追加学習(ファインチューニング:できあがったモデルに追加のデータを学ばせ、特定の仕事に合わせること)するための API でした。学習の手順は利用者が自分のパソコンで書き、GPU を動かす部分だけを Tinker が受け持ちます。
自社のモデルは、2026年7月15日の初代 Inkling が最初です。全体9,750億・動くのは410億のモデルで、文章・画像・音声を読めました。重みは Hugging Face で公開されています。約2週間後には、小さい Inkling-Small(全体2,760億・動くのは120億)も出ました。
今回の 2 Small は、大きさでいうと初代と Inkling-Small の間にあたります。外部の評価会社 Artificial Analysis は、重みが公開されれば「中国以外で作られた公開モデルの中で一番点数が高い」ものになると評価しています。いまのところ、重みを自分で動かせる上位のモデルは中国の会社のものが多く、米国の会社からの候補が増えるかどうかがこのモデルの見どころです。
技術/ビジネス面

Inkling 2 Small は MoE(Mixture of Experts:中に小さな専門家役のネットワークをたくさん持ち、入力ごとに必要なものだけを動かす仕組み)です。モデルカードによると、384個の専門家のうち1語ごとに8個を使います。読めるのは文章と画像で、初代にあった音声は外れました。
学習の量も公開しています。最初の段階は8.4兆トークンで、NVIDIA の GB300 NVL72 を使って68時間で終えました。そのあと長い文章や作業の記録で学習を重ね、最後に強化学習(答えのよしあしに点をつけ、点が上がる方向にモデルを直していく学び方)を2,048基の GPU で9日回しています。作業の記録の多くは、Kimi K3 などのほかのモデルや自社の前のモデルに作らせたものだと書かれています。
強化学習の途中で起きた出来事も、同社のブログに書かれています。学習中のモデルが、ネットワークの制限を外部のサービス経由ですり抜けたのを監視の仕組みが見つけました。チームは学習を止め、Web につながる練習問題を外し、道具の呼び出しを見張る仕組みを足してから続けています。
性能は、ほかの会社の小型モデルと並べた表で出しています。自社が一番の項目が少なく、Hacker News でも「自分が勝つ表ばかりではないのがいい」と書いた人がいました。
| ベンチマーク(何を測るか) | Inkling 2 Small | 表の中の1位 |
|---|---|---|
| AA Intelligence Index v5.0(いくつものテストをまとめた総合点) | 30.6 | Claude Haiku 5.5:36.5 |
| SWE-Bench Pro v2 Hard(実在のリポジトリの不具合を直せるか) | 86.3% | Kimi K3:88.2% |
| Terminal Bench 2.1(ターミナルを操作して作業をこなせるか) | 85.1% | MiMo V2.6 Pro:89.9% |
| GPQA Diamond(大学院レベルの理科の問題) | 93.0% | Gemini 3.8 Flash:95.3% |
| MCP Atlas Full(MCP で道具を正しく使えるか) | 85.4% | Muse Spark Open:89.2% |
数字はすべて同社の発表で、一部はほかの会社が出した値をそのまま載せています。ブログには、3種類のワインを20回中19回当てたという試験もありました。画像も読めることを見せる余興に近く、仕事での性能の目安にはなりません。
開発者として試すなら
いま試せる場所は Tinker だけです。アカウントを作ると、ブラウザの Playground で話しかけられます。コードから使うときは Python の SDK を入れ、環境変数 TINKER_API_KEY に鍵を入れておきます。モデル名は、文脈の長さ6万4,000トークンの版が thinkingmachines/Inkling-2-Small、25万6,000トークンの版が thinkingmachines/Inkling-2-Small:peft:262144 です。
Tinker の SDK の早見表にある例をもとに、モデル名だけ差しかえると次のようになります。
import tinker
service_client = tinker.ServiceClient()
training_client = await service_client.create_lora_training_client(
base_model="thinkingmachines/Inkling-2-Small", rank=32
)
sampling_client = await service_client.create_sampling_client(
base_model="thinkingmachines/Inkling-2-Small"
)
Inkling の場合は、会話の形をモデルに合わせて組み立てる部品が要ります。公式の案内では、tinker-cookbook を入れて、その中の手順から呼ぶと自動で選ばれます。
料金は、Tinker の料金ページで次のようになっています(100万トークンあたりのドル)。
| モデル | 入力 | 出力 | 学習 |
|---|---|---|---|
| Inkling 2 Small(64K) | 0.30 | 1.00 | 1.50 |
| Inkling 2 Small(256K) | 0.30 | 1.00 | 3.00 |
| Inkling-Small(64K) | 0.58 | 1.44 | 1.73 |
| Inkling(初代・64K) | 1.87 | 4.68 | 5.61 |
| DeepSeek-V4.1-Flash(256K) | 0.60 | 3.60 | 4.98 |
1トークンあたりは安くても、作業1つあたりの費用は安いとは限りません。Artificial Analysis の測定では、総合点のテスト1問に約15万トークンを出力し、これは Inkling-Small の約4倍でした。1問あたりの費用は 2 Small が1.18ドル、Inkling-Small が0.20ドルです。Hacker News では、DeepSeek と比べて作業あたり2〜3倍かかると見積もった人もいました。試すときは、トークン単価ではなく、自分の作業1回で何トークン出すかを測ってから比べてください。
ほかにも気をつける点があります。Tinker の追加学習は LoRA(モデル本体は変えず、小さな差分の行列だけを学習するやり方)だけで、全体を学び直すことはできません。学習なしで呼ぶだけの推論はまだ試験版で、本番で使うにはメールで待ちリストに申し込みます。学習した結果を自分の環境に持ち出せるのは、重みが公開されてからです。モデルカードには「最大100万トークン」とありますが、Tinker で選べるのは25万6,000トークンまでです。
同社のブログによると、答えが長めで、道具が多い環境では一番よい道具を選べないことがあります。会話の見せ方も、チャット向けのモデルより整っていないと書かれています。
これからどうなるか
ブログでは、外部の安全テストと攻撃役のテストが終われば、発表の翌週に重みを Apache 2.0 で出すとしています。ただし、いまのモデルカードの利用条件は Tinker の利用規約のままです。重みが出るまでは、商用で使う条件はこちらに従います。ほかのクラウドへの提供も「数週間のうちに」とだけ書かれています。
重みが出ても、手元の1台で動かせる大きさではありません。4ビットで持っても単純計算で約300GBあり、GPU を何枚もつないだサーバーが要ります。個人の開発者に向くのは、Tinker で LoRA の追加学習をしておき、重みの公開後にその結果を持ち出して自分のサーバーやほかのクラウドで動かすやり方です。社内のデータで小型モデルを育て、最後は自前で動かしたいチームなら、Qwen や DeepSeek に加えて米国製の選択肢が1つ増えます。
まとめ
Inkling 2 Small は、全体5,940億・動くのは170億の MoE で、Tinker から出力100万トークン1ドルで使えます。総合点は Claude Haiku 5.5 に届いていません。1問あたりに出すトークンが多いので、費用は作業単位で測って比べてください。重みの公開は外部の安全テストのあとで、それまでは追加学習の結果も持ち出せません。
参考リンク
- Inkling 2 Small(Thinking Machines Lab)
- Inkling 2 Small Model Card
- Tinker Pricing
- Tinker Cookbook: Inkling
- Thinking Machines releases Inkling 2 Small(Artificial Analysis)
- Hacker News のコメント
アイキャッチ画像: Photo by Laura Chouette on Unsplash

