ArmとMetaは、AIシステム強化に向けた戦略的提携を発表しました。MetaのAI基盤はArmのNeoverseプラットフォームへ移行し、電力効率に優れたArmの技術を活用することで、Metaは急増するAIサービスの需要に対応する大規模データセンター構想を加速させます。この提携は、所有権の交換を伴わない技術パートナーシップとして、効率性とスケーラビリティを追求する次世代AIインフラ構築の新たな形を示しています。
ArmとMeta、AIシステム強化で戦略的提携
半導体設計大手Armと、ソーシャルメディアの巨人Metaは、AIシステムの強化に向けて戦略的な複数年提携を締結しました。この提携により、Metaが提供するアプリケーションやテクノロジーの根幹をなすランキングおよびレコメンデーションシステムが、ArmのNeoverseプラットフォームへ移行します。ArmのNeoverseは、クラウド環境におけるAIシステム向けに最適化されており(Arm Newsroom: https://newsroom.arm.com/news/enabling-ai-infrastructure-on-arm)、Metaの大規模AIワークロードを効率的に処理する能力が期待されます。
Metaのインフラ責任者であるSantosh Janardhan氏は、「AIは人々のつながり方や創造の仕方を大きく変革している」と述べ、Armとの提携を通じて「30億人以上のMetaアプリ・技術ユーザーに、効率的にそのイノベーションを拡大できる」とコメントしました。また、ArmのRene Haas CEOは、「AIの次の時代は、規模に応じた効率性を提供することで定義される」とし、Armの優れた電力性能とMetaのAIイノベーションの融合に期待を示しています。このArmとMetaのAIシステム強化に向けた動きは、業界内外から大きな注目を集めています。
MetaのAI基盤がArm Neoverseへ移行する理由
MetaのAI基盤がArm Neoverseプラットフォームへ移行する主な理由は、その卓越した電力効率とAIワークロードへの最適化にあります。Metaは、膨大なユーザーを抱えるサービスにおいて、大規模なAIモデルの推論やレコメンデーションエンジンを稼働させており、高い処理性能と同時に、消費電力の抑制が喫緊の課題です。データセンターの運用コストにおいて、電力費が占める割合は非常に大きく、電力効率はビジネスの持続可能性とスケーラビリティを左右する重要なKPIとなります。
Armのアーキテクチャは、長年モバイル分野で培ってきた省電力技術が最大の強みです。Neoverseプラットフォームは、特にクラウド環境やデータセンターでのAI推論ワークロードにおいて、ワットあたりの性能を最大化するように設計されています(Arm: https://www.arm.com/products/silicon-ip-cpu/neoverse)。MetaがこのArm Neoverseを採用することで、急増するAI需要に対応しつつ、運用コストを削減し、より環境に配慮したAIインフラ構築を実現できると期待されています。これは、AIの規模拡大に伴う電力消費の課題に対する戦略的な解答と言えるでしょう。
電力効率を追求するArmのAIインフラ戦略
Armはこれまで主にモバイルCPUアーキテクチャで広く知られてきましたが、現在のAI時代においては、その低電力デプロイメントにおける優位性をデータセンター領域へと拡大しています。NVIDIAのような競合他社がGPU分野でリードする中、ArmはAIインフラ市場において「性能あたりの電力効率(performance-per-watt)」を最大の差別化要因としています。大規模なAIワークロードがデータセンターで実行される際、数千、数万ものサーバーが消費する電力は、企業にとって膨大な運用コストと環境負荷に直結します。
ArmのAIインフラ戦略は、この電力問題を解決することに焦点を当てています。Neoverseプラットフォームは、推論ワークロードに特化して最適化され、より少ない電力でより多くのAI処理を実行することを可能にします。これにより、企業はAIモデルの規模を拡大しながらも、電力消費を抑え、持続可能なIT運用を実現できます。これは、環境規制の強化やエネルギーコストの高騰が進む中で、企業がAIを大規模に導入する上で極めて重要な要素となり、Armは次世代のArm Meta AIインフラ構築において欠かせない存在感を発揮しています。
Metaが描く大規模AIデータセンター構想
Metaは、AIサービスの爆発的な需要増に対応するため、自社のデータセンターネットワークに前例のない大規模投資を進めています。その構想の中核をなすのが、コードネーム「Prometheus」と「Hyperion」と名付けられた超大規模データセンタープロジェクトです。「Prometheus」は2027年稼働開始が予定されており、複数ギガワット規模の電力供給能力を持つとされています。オハイオ州ニューアルバニーで建設が進められており、プロジェクトの電力需要を直接賄うために200メガワットの天然ガス発電プロジェクトも併設されます。
さらに、ルイジアナ州北西部では、2,250エーカーもの広大な敷地に「Hyperion」データセンターキャンパスが建設中です。完成時には5ギガワットもの計算能力を提供することを目指しており、建設は2030年まで続くと報じられています(Data Center Frontier: https://www.datacenterfrontier.com/hyperscale/article/55310441/ownership-and-power-challenges-in-metas-hyperion-and-prometheus-data-centers)。このような超大規模なAIインフラ構築において、電力効率は運用コストと環境負荷を大きく左右するため、Armとの提携はMetaの戦略にとって不可欠な要素です。Meta Arm AI インフラ構築は、未来のデジタル社会を支える基盤となります。
NVIDIAやAMDとは異なるAI提携の形
ArmとMetaの提携は、昨今のAIインフラ市場で見られる他の大手テック企業間の取引とは一線を画しています。近年、NVIDIAはAIスタートアップへの積極的な投資戦略を展開しており、OpenAIへ1,000億ドル規模の段階的な投資を行うほか、Elon Musk氏のxAI、Mira Murati氏のThinking Machines Lab、フランスのAIラボMistralなどへの数十億ドル規模の投資を報じられています(TechCrunch: https://techcrunch.com/2025/10/12/nvidias-ai-empire-a-look-at-its-top-startup-investments/)。また、AMDもOpenAIに対し6ギガワット相当の計算能力を供給するとともに、OpenAIの株式オプションを最大10%取得する形で提携していると報じられています(TechCrunch: https://techcrunch.com/2025/10/06/amd-to-supply-6gw-of-compute-capacity-to-openai-in-chip-deal-worth-tens-of-billions/)。
これに対し、ArmとMetaのAI提携は、所有権の交換や大規模な物理インフラの共有を伴いません。この形式は、純粋な技術パートナーシップを通じて双方の専門知識と強みを最大限に活用し、効率的なAIインフラを構築するというモデルと言えます。各企業の独立性を保ちつつ、技術的なシナジーを最大化することで、市場の変化に迅速に対応し、それぞれのビジネス戦略に合わせた柔軟なAIシステム強化を実現する、現代的な協力関係の形を示しています。