Ricursive、AIで設計するチップで計算危機に挑む

a person holding up a piece of electronic equipment AI

Ricursive Intelligenceの創業者であるAnna Goldie氏とAzalia Mirhoseini氏は、10月14日にサンフランシスコで開かれたTechCrunch Disruptの舞台に立ちました。2人は、AIが自らチップを設計し、結果から学んで次の設計を改善する仕組みで「計算資源の危機」に挑むと説明しました。Goldie氏は、今後5年で計算需要が少なくとも1万倍に増えるという見方を示しています。データセンターを1万倍に増やす代わりに、チップ自体を効率化する発想です。

背景と文脈

AIの学習と推論に必要な計算量は、年々膨らんでいます。需要に応える最も単純な方法は、データセンターを増やすことです。しかし、土地や電力、チップを作る工場(fab)の生産枠には限りがあります。Goldie氏は、シリコンウェハーや製造能力、データセンター内の通信帯域をもっと効率よく使うべきだと訴えました。

2人が過去に開発したAIシステム「AlphaChip」は、チップ上の部品配置をAIで決めるものでした。AlphaChipは、ドーナツ状に部品を並べる設計を生み出しています。人間の技術者は最初に驚きましたが、結果として設計は有効だったと、TechCrunchの報道は伝えています。Ricursiveはその延長線上にある取り組みです。

従来のチップ設計は、専門家が長い時間をかけて進める作業でした。設計に半年から2年かかれば、どのチップを作るかを慎重に選ばざるを得ません。作る種類が限られるため、用途に合わせた専用品は採算が合いにくい状況でした。

技術/ビジネス面

gray and back circuit illustration
Photo by Mathew Schwartz on Unsplash

Ricursiveの特徴は、チップを丸ごと最適化する点です。従来は、チップを数十の小さなブロックに分割し、それぞれを設計してから組み合わせていました。同社は分割せず、全体を一度に扱います。この方式により、AIは波のような複雑な模様を含む配置を作れるそうです。2人は、詳細を後日公開する予定だと話しています。

もう1つの柱は、学習を繰り返す仕組みです。AIが設計を出し、その結果から学び、次の設計を改善します。これを重ねるほど、人間が思いつかない配置が見つかる可能性があります。AIの発想で人間の設計を上回る例は、囲碁やゲームの分野で既に知られています。チップ設計に同じ考え方を持ち込む試みです。

ビジネス面で大きいのは、設計期間の短縮です。Goldie氏は、チップを1週間ほどで設計できれば、宇宙用やAR・VR、生体を使った計算など、多様な用途に合わせた専用チップを経済的に作れると語りました。設計コストが下がれば、少量でも採算に乗る用途が増えます。

ただし、現時点で示された内容は登壇での説明が中心です。設計の性能や省電力効果を示す具体的な数値、量産に至った実績は、報道では確認できません。主張が実機で裏付けられるかが、今後の評価の分かれ目になります。

これからどうなるか

計算需要への対応は、データセンターの増設一辺倒から、チップの効率化へ広がりつつあります。AIでチップを設計できれば、用途別の専用品が増え、汎用GPU一強の構図が変わる余地も出てきます。

開発者の視点では、使えるアクセラレータ(AI計算を高速化する専用チップ)の種類が増える可能性があります。種類が増えれば、モデルを動かすコードの移植性や、ライブラリの対応状況が選定の重要な基準になります。特定のチップに深く依存した実装は、将来の乗り換えコストになりかねません。

Goldie氏は、人間が発想を担い、実行はAIが担う分業が進むと述べています。これはチップ設計だけでなく、ソフトウェア開発にも通じる見方です。同社が詳細を公開する際に、性能の実データが示されるかを見守る必要があります。

投資や産業の面でも、示唆があります。計算需要の増加が見込まれる中、チップの設計を速くする企業は、半導体の供給網のうち設計工程を担う存在になります。製造を担うfabの能力が限られるなら、1枚のウェハーから取れる性能を引き上げる設計の価値は、そのまま収益に結びつきます。人材面でも、AIで設計を支援できる技術者の需要は高まるでしょう。

最後に、時間軸も確認しておきます。チップは設計から量産まで年単位の工程です。設計が速くなっても、試作や検証、製造枠の確保は別の制約として残ります。Ricursiveの構想が計算需要に効くまでには、なお時間がかかると見るのが現実的です。

まとめ

Ricursive Intelligenceは、AIが全体を丸ごと設計し、学習を重ねるチップ設計を掲げています。設計期間を週単位に縮められれば、専用チップの経済性が変わります。実証データの公開が待たれます。

参考リンク

アイキャッチ画像: Photo by Akshar Dave🌻 on Unsplash

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