米メタが、AIスタートアップのアンソロピックに自社データセンターの計算能力を貸し出す契約を協議中です。米ニューヨーク・タイムズが報じました。契約規模は2年間で最大100億ドル(約1兆5500億円)に達する可能性があるといいます。アンソロピックが6月に提案し、交渉は初期段階とされています。自社大規模言語モデルの収益化に苦戦するメタが、余剰計算力を外部に貸す新事業へ大きく舵を切ろうとする動きの一環です。
背景と文脈
AI業界では計算資源の争奪戦が激しさを増しています。アンソロピックはこれまでも複数の大型調達契約を結んできました。5月にはイーロン・マスク氏率いるxAIとの間で、SpaceXのデータセンターを介した月額12.5億ドルの契約を締結しました。2029年5月まで続き、総額40億ドル超に上るとされます。7月にはインフラ企業テラウルフとケンタッキー州の施設を20年・190億ドルでリースする契約も明らかになりました。
テラウルフとの契約では、かつてアルミ精錬工場だったケンタッキー州ホーズビルの拠点を20年間借り受けます。2027年には最大出力401メガワットの施設として稼働させる計画です。アンソロピックは早ければ10月にも新規株式公開(IPO、企業が株式を証券取引所に上場し一般投資家から資金を調達する手続き)を目指しているとされます。長期の計算力調達契約を積み上げ、収益の予見可能性を高める狙いがあるとみられます。
一方のメタは、AI基盤整備に1829億ドル(2026年第1四半期時点)を投じる計画を掲げてきました。しかし自社開発の大規模言語モデル(LLM、大量の文章データから学習し対話や文章生成を行うAIモデル)「Llama」は目立った収益を上げていません。決算でもAI関連の売上は独立開示されておらず、収益化の道筋が課題となっていました。アンソロピックにとっても利点があります。既存の出資元アマゾンやグーグルに加え、メタという調達先が増えれば特定企業への依存を分散できます。
技術/ビジネス面

今回のアンソロピックとの協議は、メタが7月上旬に明らかにした新事業構想「Meta Compute」の一環と位置づけられます。ニューヨーク・タイムズによると、メタは2つの方式を検討中です。開発者向けに自社AIモデルをホスティングする方式と、生のGPU(AIの学習・推論処理に使う画像処理用半導体)容量そのものを外販する方式です。前者は画像生成モデル「Muse Spark」などをアマゾンのBedrockに似た形で貸し出す構想です。後者はCoreWeaveのようなクラウド専業企業と同様、生の計算力そのものを販売します。アンソロピック向けの契約は後者にあたり、余剰データセンター容量を丸ごと貸し出す形になる見通しです。
この構想は、メタの複数幹部が主導しているとされます。インフラ部門トップのサントッシュ・ジャナルダン氏、メタ・スーパーインテリジェンス・ラボを率いるダニエル・グロス氏、社長のディナ・パウエル・マコーミック氏らです。仕組みとしては、SpaceXがコロッサス1データセンターの容量をアンソロピックに貸し出した契約や、テラウルフとの長期リースと同じ発想です。自社で使い切れない計算資源を、需要が旺盛な他社に貸し出して収益化します。月額12.5億ドル(年換算150億ドル)規模になるとの報道もあり、実現すればメタにとって新たな収益の柱になり得ます。
これからどうなるか
契約が成立すれば、メタはAWS・グーグルクラウド・マイクロソフトAzureに続く計算力の供給元として、ライバルであるはずのAI企業を支える立場になります。皮肉にも、自社LLMの競争力で劣勢に立つメタが、他社モデルの成長を裏方で支える構図です。市場の反応は一様ではありません。7月1日の「Meta Compute」報道時にはメタ株が急伸しました。半導体株全体が下落する局面と重なった今回の報道では、逆にメタ株が下落するなど相場が神経質に動きました。
交渉はまだ初期段階で、金額や条件が固まらず破談になる可能性も残ります。それでも計算資源そのものが企業間で売買される「商品」になりつつある現状を象徴する事例として、業界内外から注目を集めています。開発者にとっても無縁の話ではありません。計算資源の供給元が多様化すれば、Claude APIなど利用中のサービスで容量逼迫による制限が起きにくくなる可能性があります。GPU調達の動向はAPI料金やレート制限にも直結するため、開発者も注視する価値があります。
まとめ
ニューヨーク・タイムズが報じたメタとアンソロピックの計算力貸与協議は、生成AI業界の資源争奪戦の新局面を示します。規模は2年で最大100億ドルに達する可能性があり、メタは自社LLMの収益化難航を背景に計算力販売という収益源を模索しています。交渉は初期段階で、成立するかは不透明です。今後の進展が、AI開発を支えるインフラ勢力図の変化を占う重要な材料になりそうです。
参考リンク
- Meta in Talks to Rent Anthropic Computing Power in Deal That Could Reach $10 Billion
- Meta, like SpaceX, looks to turn excess AI compute into cash
- Anthropic will pay xAI $1.25 billion per month for compute
アイキャッチ画像: Photo by CHUTTERSNAP on Unsplash

