CERNとMistral提携 LHC衝突データで物理の基盤モデル

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欧州原子核研究機構(CERN)と仏AI企業Mistral AIが、科学研究向けのAIで長期的に協力すると発表しました。最初の目標は「Large Physics Model」です。大型加速器LHCで起きる陽子同士の衝突を数十億回分シミュレーションし、そのデータで学習させます。衝突型加速器の物理に特化した初の基盤モデルを目指す計画で、欧州のAIと基礎科学を結ぶ動きとしても注目されています。

背景と文脈

CERNはスイス・ジュネーブ近郊にある素粒子物理学の研究所です。全周27kmの加速器LHC(Large Hadron Collider、大型ハドロン衝突型加速器)で陽子を高速でぶつけ、その結果を検出器で記録しています。2012年のヒッグス粒子の発見もLHCの成果です。CERNが保存するLHCの実験データは約1エクサバイト(100万テラバイト)に達しています。

データ量はこれからさらに増えます。2030年ごろに稼働予定の高輝度LHC(HL-LHC)では、衝突の回数が今の10倍になる見込みです。従来の解析手法のままでは、処理の手間と計算資源が追いつかなくなるおそれがあります。AIで解析を効率化する必要性は、物理学の側でも高まっていました。

一方のMistral AIは、フランスに本社を置く欧州の代表的なAI開発企業です。重みを公開するオープンウェイトのモデルを多く出しており、利用者がAIを「所有し、調整し、管理できる」点を売りにしています。CERNは10月15日の発表で、今回の協力を欧州の科学技術力を強める取り組みと位置づけました。

技術/ビジネス面

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Photo by Raghav Bhasin on Unsplash

両者が署名したのは、協力の意思を示す「趣意書」です。役割分担は明確で、CERNが物理の専門知識、科学データ、大規模な計算環境を出します。Mistralは大規模モデルの学習ノウハウを担います。まずは高エネルギー物理学に絞り、将来は他の科学分野への応用も視野に入れています。

計画の核となるLarge Physics Modelは、基盤モデル(大量のデータで事前学習し、さまざまな下流タスクに使い回せる汎用モデル)の考え方を物理に持ち込むものです。言語モデルが大量の文章から言葉の規則を学ぶように、大量の衝突シミュレーションから物理現象のパターンを学ばせます。想定する用途は、衝突の再構成、粒子の識別、想定外の信号の検出、将来の検出器設計の評価です。

特に変わりそうなのが「再構成」の工程です。再構成とは、検出器に残った大量の信号から、どんな粒子がどこを通ったかを組み立て直す作業を指します。現在は、専門のアルゴリズムを何段も連ねて処理しています。新モデルは、この一連の流れを1つのシステムでまとめて学習させる狙いです。段ごとの手作業の調整が減れば、HL-LHCの膨大なデータにも対応しやすくなります。

一方、まだ公表されていない点も多く残ります。契約期間、計算資源の規模、資金は明かされていません。モデルの重みを公開するかどうかも決まっていません。CERNのCIO、Enrica Porcari氏は、成果を物理学のコミュニティ全体で共有できるようにしたいと述べています。

これからどうなるか

今回の提携は、「テキスト以外の基盤モデル」が広がる流れの一例です。タンパク質、気象、材料などの分野では、すでに専用の基盤モデルが成果を上げています。素粒子物理は、厳密なシミュレーションで大量の正解データを作れる珍しい分野です。MistralのBrandstetter氏も、新しい発見につながる可能性に触れています。

注視すべきは、モデルの公開範囲と検証の仕方です。物理学では、結果がなぜそうなったかの説明が欠かせません。AIの出力をどこまで信用できるかを確かめる手順も、研究の一部になるでしょう。

開発者にとっては、ログやセンサー値のような「文章ではない大量データ」にも、基盤モデルの手法が使えることを示す事例です。何段もの前処理を個別に作り込むより、まとめて学習させる方が保守しやすい場面は、業務システムにもあります。手元の時系列データや監視ログで、同じ発想を試す余地は十分にありそうです。

まとめ

CERNとMistralは、LHCの衝突シミュレーションで学習する物理の基盤モデルづくりで手を組みました。何段もの解析処理を1つのモデルにまとめ、2030年ごろの10倍のデータ量に備える狙いです。資金や公開方針はまだ明らかになっていません。

参考リンク

アイキャッチ画像: Photo by Franck V. on Unsplash

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