Meta CEOのマーク・ザッカーバーグ氏は今年1月、自身の別荘で開いた幹部合宿で、AIに社員の日常業務の多くを担わせる大胆な組織改革案「プロジェクトOT」を立ち上げました。5月と11月の2段階で人員を絞り込む計画でしたが、5月19日の夜、ザッカーバーグ氏は方針を転換します。翌日に社員の10%を削減した一方、11月分の追加削減は撤回されました。AIがコードを量産しても製品に結びつかなかったことが背景にあると、米ロイターの調査報道が伝えています。
背景と文脈
プロジェクトOTは「Organization Transformation」の略で、AIエージェント(人に代わって一連の業務を自律的にこなすAIの実行主体)に日々の作業の大部分を任せ、人間の社員はごく少数の「タレント密度の高い」チームに絞り込むという発想に基づいていました。仮想的な「AI労働力」を少人数の人間が監督する体制へと、組織構造そのものを作り替える狙いです。
計画は2段階の人員削減として設計されました。まず5月に第1波、続いて11月に第2波を実施し、レイオフに加えて欠員補充の停止や低評価者の退職勧奨も組み合わせる想定でした。ところが5月19日の夜、レイオフ発表を控えたタイミングでザッカーバーグ氏がひるみ、翌20日に社員の10%を削減する一方、11月分の計画は取りやめになりました。
社内では、AIコーディングツールの導入で生成されるコード量自体は増えていたものの、それが製品として利用者に届く成果に比例して結びついていなかったことが明らかになっていました。加えて、社員側の抵抗やセキュリティ上の問題も表面化し、期待していたほどの生産性向上が得られていなかったといいます。
技術/ビジネス面

この顛末が象徴するのは、AIエージェントに任せる業務量を増やせば増やすほど組織が効率化するという単純な図式が、少なくとも現時点では成立しないという現実です。ザッカーバーグ氏は最近の社内タウンホールで「少なくともここ4カ月のエージェント型開発の進み具合は、我々が期待したようには加速していない」と認めています。
背景には、AIが書いたコードの量と、実際にユーザーへ届く機能や製品の量が比例しないという構造的なギャップがあります。コード生成の速度が上がっても、それをレビューし、統合し、安全に本番環境へ出す工程は依然として人手に依存する部分が大きく、ボトルネックが別の場所に移っただけだった可能性があります。さらに、AIが生成したコードに起因するセキュリティ上の懸念や、業務のやり方を急速に変えられることへの社員の抵抗感も、計画の実行を難しくした要因として挙げられています。
Metaほどの資本と人材を投じても、組織全体をAI中心に作り替える計画を数カ月で撤回せざるを得なかった事実は、同様の構想を検討する他の大企業にとっても重い教訓です。AIツールの導入効果を測る際は、コード生成量のような表面的な指標ではなく、実際に出荷される製品への貢献度で評価する必要があることを示しています。
これからどうなるか
Metaの事例は、AIによる自動化を急ぎすぎる経営判断へのブレーキとして、今後の業界全体の議論に影響しそうです。大量レイオフを前提にAI導入を計画していた企業ほど、実際の生産性データを確認しないまま実行に移すリスクを再考する契機になるでしょう。
開発者の立場からは、AIコーディングツールを使う際に「コードの生成量」ではなく「レビューを経て実際に本番に乗った量」を自分たちのチームの指標にする発想が参考になります。生成速度だけを追う運用は、Metaが直面したのと同じギャップを生みかねません。また、エージェント型AIの実力を測る際に社内タウンホールのような率直な進捗共有の場を設けることも、期待と実態のズレを早期に把握するうえで有効な手立てといえます。
まとめ
Metaは今年1月、AIに社員の日常業務を担わせて組織を作り替える計画「プロジェクトOT」を始動しましたが、5月に社員10%を削減した段階で11月分の追加削減を撤回しました。AIが書くコード量は増えても製品への貢献に結びつかなかったことが要因です。AI活用の成果は生成量ではなく実際の出荷実績で測る視点が欠かせません。
参考リンク
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