Starcloud、宇宙データセンターに2.5億ドル調達

宇宙空間の人工衛星 AI

衛星上でAI推論を行う米国のスタートアップ、Starcloudが2億5,000万ドル(約375億円)を追加調達しました。3月のシリーズAラウンド1億7,000万ドルの拡張分で、これにより同社の評価額は23億ドルに達しています。地上のデータセンターが電力不足に直面する中、軌道上に計算基盤を置くという構想が現実味を帯びてきました。

背景と文脈

AIブームの拡大とともに、データセンターの電力消費は各国で深刻な課題になっています。GPU(Graphics Processing Unit:画像処理用に開発され、現在はAIの計算にも広く使われる処理装置)を大量に並べた施設は膨大な電力と冷却水を必要とし、立地できる場所も限られてきました。

こうした制約への解決策として近年浮上しているのが、太陽光発電と宇宙空間の低温環境をそのまま生かせる軌道上データセンター構想です。地上の送電網に頼らず、衛星の太陽電池パネルで発電しながらAIの推論処理を行うという発想で、Starcloudはこの分野の先行企業のひとつです。真空である宇宙空間は大気による熱の遮断がなく放射冷却がしやすいとされ、冷却水を大量に使う地上施設とは異なる方式で熱を逃がせる点も利点として挙げられています。

ただし宇宙空間での計算基盤には、打ち上げコストや放熱、通信帯域といった地上にはない制約もあります。今回の資金調達は、こうした技術的な壁を越えるための開発資金という位置づけになります。半年に満たない期間で評価額が積み上がっている点からも、投資家がこの分野の将来性を高く見積もっていることがうかがえます。

技術/ビジネス面

サーバーラックのイメージ
Photo by GuerrillaBuzz on Unsplash

今回の調達はManhattan West Venturesが主導し、NvidiaやCisco、Benchmark、EQTなどが参加しました。特にNvidiaは2,500万ドルを投じており、GPUメーカー自身が軌道上インフラに直接出資した点が目を引きます。社員数25人という小規模な組織での大型調達も特徴的です。

Starcloudの事業計画では、1基あたり8kWの演算能力を持つ「Starcloud-2」衛星を2027年に相乗り打ち上げし、まず米政府向け顧客に提供します。さらに大型の「Starcloud-3」はSpaceXの大型ロケット「Starship」での打ち上げを想定しており、最終的には8万8,000機規模の衛星群を運用する計画をFCC(米連邦通信委員会)に申請しています。

出資元のNvidiaにとっても、この投資は無関係ではありません。同社は2028年後半をめどに、宇宙向けGPU「Vera Rubin Space-1」の打ち上げを検討しているとされ、Starcloudのような衛星プラットフォームは自社製GPUの新たな搭載先にもなり得ます。GPUメーカーが軌道上インフラの開発企業に直接出資する構図は、AIチップの需要先を地上以外にも広げようとする動きとして見ることができます。

一方で事業の前提を揺るがしかねないのが打ち上げ能力の逼迫です。主力ロケットのFalcon 9は2028年に運用終了が予定されており、Blue OriginやULAの代替ロケットも供給が安定していません。Starcloudのフィリップ・ジョンストンCEOは「打ち上げ枠を確保すること自体が最大のコストの一つになっている」と述べています。

これからどうなるか

軌道上データセンターが本当に地上の施設を代替できるかは、まだ未知数の部分が大きいです。放熱や通信遅延、機体の耐用年数といった課題は残っており、当面は特定用途向けの補完的な計算資源にとどまる可能性が高いといえます。

それでも、電力網に縛られない計算基盤という発想は、データセンター立地に悩む国や地域にとって選択肢の一つになります。開発者にとっては直接関わる話ではありませんが、衛星画像解析やリモートセンシングのように、そもそも軌道上で完結させたほうが都合のよい推論ワークロードが増えれば、専用APIとして利用する場面も出てくるかもしれません。

直近のスケジュールを左右するのは、やはり打ち上げ能力の回復ペースです。SpaceXのStarship再飛行は2026年末から2027年初めに見込まれており、これが計画通りに進むかどうかで、Starcloud-3の投入時期はもちろん、業界全体の宇宙インフラ計画のペースも変わってきます。まずは2027年に予定される8kW級のStarcloud-2が、米政府向けの実運用でどこまで実績を積めるかが最初の試金石になりそうです。

まとめ

Starcloudが2.5億ドルを追加調達し、評価額23億ドルの軌道上AIデータセンター企業になりました。打ち上げ能力の制約が事業拡大の最大の壁として残っています。

参考リンク

アイキャッチ画像: Photo by Sam te Kiefte on Unsplash

タイトルとURLをコピーしました