Mira Murati氏率いるThinking Machines Labが初のオープンウェイトモデル「Inkling」を公開しました。総パラメータ数は975B(約9750億)、実際に稼働するのは41B(約410億)パラメータというMoE(Mixture of Experts)構成で、ライセンスはApache 2.0です。米国発のオープンウェイトモデルとしては最大級で、DeepSeekなど中国勢が優勢だったこの領域に一石を投じます。
背景と文脈
Thinking Machines Labは、OpenAIの元CTOミラ・ムラティ氏が2025年初めに立ち上げたAIスタートアップです。これまで独自モデルの提供よりも、モデルのカスタマイズ基盤「Tinker」の開発を先行させてきました。オープンウェイトモデルの公開は今回が初めてです。
オープンウェイトモデル(重みが公開され、誰でもダウンロードして中身を調べたり改造したりできるモデル)の分野では、ここ数年DeepSeekのV4やZhipu AIのGLM 5.2、Moonshot AIのKimi K2.6など中国発のモデルが存在感を強めてきました。Inklingは、この領域における米国発の対抗馬という位置づけです。
Thinking Machinesは「万能モデルを1つ作る」よりも、企業がそれぞれの用途に合わせてカスタマイズできる基盤を提供する戦略を掲げています。Inklingはその思想を体現するモデルで、公開時点では「現時点で最も強いモデルではない」と自ら位置づけている点も特徴です。
技術/ビジネス面

Inklingは、Mixture of Experts(MoE:複数の専門家的な小モデルに処理を分担させ、入力ごとに必要な部分だけを動かす仕組み)を採用しています。テキスト・画像・音声・動画を含む45兆トークンで学習しており、現時点の出力はテキストとコード、構造化データに限定されています。文脈の入力窓(コンテキストウィンドウ)は100万トークンに達します。
性能面では、コーディング性能でNvidiaの「Nemotron 3 Ultra」と同等の結果を、その3分の1程度のトークン数で達成したとしています。Bridgewater Associatesと共同実施した金融推論のテストでは正答率84.7%を記録し、比較対象となった商用モデルの約14分の1のコストで動作したといいます。回答には確信度を明示する「calibrated answers」の仕組みも組み込まれており、計算量と精度のバランスを調整できる「thinking effort」機能も備えます。
ライセンスはApache 2.0で、Hugging Faceからダウンロードできるほか、ファインチューニングは自社基盤「Tinker」上で行う想定です。同社の収益源はモデルの提供そのものではなく、学習・ファインチューニング・ホスティングを含むエコシステム利用料に置かれています。軽量版「Inkling-Small」(アクティブパラメータ12B)のプレビューも同時に公開されました。
学習過程にも工夫があります。初期の事後学習(post-training:事前学習を終えたモデルに追加の調整を加える工程)データの生成には、Moonshot AIの「Kimi K2.5」など他社のオープンウェイトモデルを補助的に利用したとしています。大規模な強化学習に入る前段階での効率化が狙いです。
これからどうなるか
Inklingの登場は、オープンウェイトモデルの主導権争いに米国勢が本格的に加わったことを意味します。同社は次期モデルについて、他社モデル(Moonshot AIのKimi K2.5)を借りずに完全に自前でポストトレーニングを行う方針も明かしており、技術的な独立性を高める姿勢がうかがえます。
開発者にとっては、大規模な自社ホスティングやファインチューニングをApache 2.0ライセンスの下で自由に行える選択肢が増えたことが実利です。コーディング用途で商用モデルに近い性能を、より少ない計算量で狙えるなら、社内のCI環境やオンプレミス運用でのコスト試算を見直す材料になりそうです。
まとめ
Thinking Machines Labが公開したInklingは、975B(9750億)パラメータのMoEモデルとして米国発オープンウェイトモデルの最大級となりました。Apache 2.0ライセンスとTinker基盤を軸に、カスタマイズ重視の戦略を打ち出しています。
参考リンク – Thinking Machines amps up its bet against one-size-fits-all AI with its first open model, Inkling – Thinking Machines Lab Releases Inkling
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