【解説】OpenAI元研究者Fedusが新AIスタートアップPeriodic Labs設立、3億ドル資金調達で科学発見に挑む

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OpenAIの著名な元研究者リアム・フェダス氏と、元Google Brainのエキン・ドガス・チュブック氏が新たなAIスタートアップ「Periodic Labs」を設立しました。科学発見の自動化を目指し、シードラウンドで3億ドル(約450億円)という巨額の資金調達に成功。超伝導体材料の発見に注力するPeriodic Labsは、AIとロボット技術を統合し、研究プロセスを根本的に変革する可能性を秘めています。

順調な資金調達

OpenAIの主要な研究者だったリアム・フェダス氏は、退職後まもなく自身のスタートアップ、Periodic Labsの設立を発表しました。当初、フェダス氏のツイートからはOpenAIが投資に参加するような印象を与えましたが、実際にはOpenAIからの出資はありませんでした。これは、AI分野のトップタレントが次々と独立し、新たなAIスタートアップを立ち上げる動きを象徴しています。

しかし、Periodic Labsは資金調達に苦労しませんでした。ベンチャーキャピタルであるFelicisが主導し、ピーター・デング氏が積極的に関与。デング氏は元OpenAIの同僚であり、フェダス氏のアイデアに感銘を受け、その場で投資を決定したと報じられています。この資金調達は、AI研究者が独立して巨大な資本を引き寄せる、現代のベンチャーキャピタル投資の傾向を示しています。

その他にも、Andreessen Horowitz、DST、NVIDIAのベンチャーキャピタル部門NVentures、Accelなどが投資家として名を連ねています。さらに、ジェフ・ベゾス氏、エラド・ギル氏、エリック・シュミット氏、ジェフ・ディーン氏といった著名なエンジェル投資家も参加し、Periodic Labsへの期待の高さが伺えます。これらの資金が、科学分野におけるAIの新たなフロンティアを開拓する原動力となるでしょう。

AIとロボットが科学発見を自動化する仕組み

Periodic Labsは、人工知能とロボット技術を組み合わせ、科学発見のプロセスを根本的に自動化することを目指しています。共同創設者のエキン・ドガス・チュブック氏は、大規模言語モデル(LLM)の進化、ロボットアームの信頼性向上、そして機械学習シミュレーションの精度向上が、このタイミングでのスタートアップ設立を可能にしたと説明しています。

具体的には、まず高精度な機械学習シミュレーションが新物質の理論的な発見を支援します。次に、粉末合成などを担うロボットアームが、AIの提案に基づき実際に材料を混合・生成します。最後に、LLMが実験結果を分析し、次の改良点を提案することで、自律的な研究サイクルを確立します。

実際に、チュブック氏らは2023年にNature誌に発表された論文で、言語モデルが提案したレシピから41種の新規化合物を生成する、完全自動ロボットラボを実証済みです。このようなシステムは、従来数年かかっていた材料開発のサイクルを大幅に短縮し、新たな科学的発見を加速させる可能性を秘めています。

さらに、AIサイエンスでは、たとえ失敗した実験であっても貴重なデータとなります。AIは失敗から学習し、より正確な予測や実験計画を立てるため、試行錯誤の過程そのものが価値ある知見となるのです。これは、成功のみが評価されがちな従来の科学研究のモチベーションシステムを転換させる可能性を秘めていると言えます。

3億ドルもの巨額シード資金調達の内幕

Periodic Labsのシードラウンドにおける3億ドルの資金調達は、AIスタートアップ界隈でも異例の規模です。共同創設者のリアム・フェダス氏がOpenAI退職の意向をツイートすると、複数のベンチャーキャピタル(VC)が熱烈なアプローチを開始しました。「まるで逆ピッチングだった」とフェダス氏は語るほど、多くのVCが自社への投資を懇願したとされます。

その中でも、元OpenAIの同僚であるピーター・デング氏が所属するFelicisが、迅速な対応で投資を決めました。デング氏はフェダス氏との散歩中にその場で投資を約束したといいますが、当時のPeriodic Labsは法人化すらされておらず、銀行口座もありませんでした。このエピソードは、有望なAI研究者に対するベンチャーキャピタル側の強い期待と、資金が動くスピード感を表しています。

この巨額の資金は、優秀な人材の確保に直結しています。Periodic Labsはすでに20人以上のAIおよび科学分野の専門家を採用。O1やO3の生みの親であるアレクサンドル・パッソス氏、超伝導体発見で知られる材料科学者のエリック・トベラー氏、MicrosoftのGenAI材料科学ツール開発者マット・ホートン氏などが加わっています。これら多様な専門性を持つチームが、週ごとに専門分野の講義を行い、組織全体の知識レベルを高めているといいます。

超伝導体発見へ!AI科学が描く未来とは

Periodic Labsが初期の主要ミッションとして掲げるのは、新しい超伝導体材料の発見です。超伝導体は、特定の低温下で電気抵抗がゼロになる材料であり、その応用はエネルギー効率の高い送電、超高速コンピューティング、MRIなどの医療技術に革命をもたらす可能性を秘めています。より高性能で、常温に近い環境で機能する超伝導体が発見されれば、その経済的・技術的インパクトは計り知れません。

Periodic Labsはすでにラボを設立し、実験データとシミュレーションを組み合わせた研究を進めています。AIが予測した新材料の特性を検証する段階に入っているものの、ロボットアームの本格稼働にはまだ時間がかかるとのことです。科学発見は予測不可能で時間がかかるものですが、AIの力を借りることで、そのプロセスを加速し、人類がまだ見ぬ新物質の発見に繋がることを目指しています。

このようなAIによる科学発見の取り組みは、Periodic Labsに限った話ではありません。OpenAI社内でも、VPのケビン・ワイル氏が「OpenAI for Science」ユニットを立ち上げ、「AIを活用した科学発見プラットフォーム」の開発を進めていると発表しました。これは、AI開発企業自体が、AIを次世代の科学研究ツールとして位置付け、その可能性を深く掘り下げようとしていることを示しています。

参考リンク

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