米大手メディア企業People Inc.がMicrosoftとの新たなAIライセンス契約を締結しました。この契約は、Microsoft CopilotがPeople Inc.のコンテンツを「従量課金制」で利用するという画期的な内容を含みます。GoogleのAI Overviewがトラフィックに悪影響を及ぼす中、パブリッシャーがAI企業からコンテンツの対価を得るための戦略が注目されています。
People Inc.とMicrosoftの新たなAI契約
米国の大手メディアパブリッシャーであるPeople Inc.は、MicrosoftとのAIライセンス契約を締結したと発表しました。この契約は、親会社であるIACの第3四半期決算発表時に公開されました。People Inc.は、Microsoftが新たに構築するパブリッシャー向けコンテンツマーケットプレイスにおいて、主要な立ち上げパートナーとなります。これは昨年締結されたOpenAIとの契約(PR Newswire)に続く、同社にとって2件目のAI関連の大型契約です。
このPeople Inc. Microsoft AIライセンス契約は、コンテンツ利用における新たなビジネスモデルを提示しています。AI企業がメディアコンテンツの価値を認識し、適切な対価を支払う枠組みを確立する動きとして、業界から注目を集めています。特にMicrosoft Copilotが主要なコンテンツ利用者となることで、AIコンテンツ利用の具体的な方向性が示された形です。
Copilot向け「従量課金」コンテンツ利用とは
People Inc.のCEOであるニール・ヴォーゲル氏は、Microsoftの新しいコンテンツマーケットプレイスについて、「AI企業がコンテンツの利用に対し、直接的にパブリッシャーへ報酬を支払う従量課金制の市場」であると説明しました。いわば「アラカルト方式」でコンテンツが消費されるイメージです。同氏は、MicrosoftがAI事業支援のためにコンテンツへの支払い義務を負う姿勢を高く評価しており、Microsoft Copilotがこのマーケットプレイスの最初の購入者となることを明らかにしました。
ヴォーゲル氏は、Microsoftとの提携は「コンテンツの価値を認め、質の高いAIを生み出す上での強力な保証」であると強調しています。以前のOpenAIとの契約が「食べ放題」モデルに近いとされたのに対し、今回のMicrosoft Copilot コンテンツ利用契約は、より個別課金的なアプローチを取っています。People Inc.は、どちらのモデルでもコンテンツが「尊重され、対価が支払われる」ことが重要であると述べており、AIコンテンツ利用における対価の確保を重視する姿勢を明確にしています。
AI企業との交渉を促す戦略と成果
People Inc.は、AI企業が無許可でメディアコンテンツを取り込み、AI製品の開発やモデルの学習に利用している現状に異議を唱えてきました。同社のヴォーゲルCEOは、Googleが検索エンジンとAI機能の両方に同じボットを使用し、パブリッシャーがAIによるクローリングをブロックできない状況について、同社を「悪質な企業」と批判しています(TechCrunch)。
しかし、People Inc.は、ウェブインフラプロバイダーのCloudflareが提供する技術を活用し、他のAIクローラーを積極的にブロックしています(TechCrunch)。この戦略が奏功し、AI企業側からコンテンツ契約交渉を持ちかける動きが増加しました。ヴォーゲル氏は、AIクローラーのブロックが「非常に効果的」であり、多くのAI企業を交渉のテーブルに着かせたと述べています。実際に、IACの報告では、People Inc.のデジタル収益は同期に9%増加し、パフォーマンスマーケティングが38%、ライセンス事業が24%の成長を記録しました。
パブリッシャーが直面するAI時代の課題と展望
今回のMicrosoftとのAI契約締結は、パブリッシャーがAI時代に直面する課題と機会を浮き彫りにしています。People Inc.は、Google SearchのAI Overviewsが自社のウェブサイトトラフィックに悪影響を与えていると報告しました。2年前にはトラフィックの54%を占めていたGoogle Searchからの流入が、直近の四半期では24%にまで減少しています(Digiday)。この数値は、AIが検索体験を変化させ、コンテンツクリエイターへのトラフィック配分に直接的な影響を与えることを示唆しています。
日本国内のパブリッシャーも同様の脅威に直面する可能性があり、このPeople Inc. MicrosoftのAI契約は重要な先行事例となります。コンテンツの品質と信頼性を保ちつつ、AI企業との適切なパートナーシップを通じて収益源を多角化する戦略が不可欠です。AIによるコンテンツ利用が進む中で、パブリッシャーは自社コンテンツの価値を再評価し、ライセンス契約や専用のマーケットプレイスを通じた積極的な収益化を模索すべきです。AI時代におけるパブリッシャーの生存と成長には、交渉力の強化と新たなビジネスモデルへの迅速な適応が求められるでしょう。
参考リンク
- Frequently asked questions | Microsoft Learn
- People Inc. strikes Microsoft AI licensing deal as Google’s AI … | Digiday
- Frequently asked questions about Microsoft 365 Copilot Chat … | Microsoft Learn
- Dotdash Meredith Announces Strategic Partnership with OpenAI … | PR Newswire
- ‘Google is a bad actor,’ says People CEO, accusing the company of stealing content | TechCrunch
- Cloudflare launches a marketplace that lets websites charge AI bots for scraping | TechCrunch
- The Feedfeed

