米自動車大手ゼネラルモーターズ(GM)は、2028年までに「視線不要(eyes-off)」かつ「ハンズオフ(hands-off)」の次世代自動運転システムを市場に投入すると発表した。この新システムは、同社の先進運転支援システム「Super Cruise」を基盤に開発され、まずはCadillac Escalade IQに搭載される見込みだ。かつてGM傘下だった自動運転企業CruiseのAI技術とエンジニアの知見が開発を加速。メルセデスの現行システムを凌駕し、個人向け自動運転市場を牽引するGMの戦略が注目される。
GMの次世代自動運転:2028年に「視線不要」実現へ
GMはニューヨークで開催された「GM Forward」イベントで、2028年までに視線不要の自動運転システムを投入する計画を明らかにした。このシステムは、ドライバーが道路から目を離し、ハンドルから手を放した状態で運転できることを目指す。最初の搭載車両は、新型のCadillac Escalade IQになるとされる。
この発表は、TechCrunchが1年前に報じたGMの「視線不要・ハンズオフ」システム開発に関する情報が現実のものとなることを示すものだ。GMは、既存の自動運転技術を急速に進化させ、消費者が求める高度な運転支援機能を提供していく方針である。
「Super Cruise」基盤に進化する新システムの全貌
GMは、既存のハンズオフ先進運転支援システム「Super Cruise」を次世代システムの基盤として活用する。Super Cruiseは2017年に登場し、現在では23車種、約96万キロメートル(60万マイル)以上の高速道路で利用可能だ。新システムは、この実績ある技術をさらに発展させる。
次世代システムは、Lidar、レーダー、カメラといった多様な知覚センサーを組み合わせることで、より高度な状況認識能力を実現する。GMのメアリー・バーラCEOは、この視線不要システムをSuper Cruiseよりも速いペースで市場に展開すると述べており、技術への自信と市場投入への意欲の高さがうかがえる。
CruiseのAI技術とエンジニアが開発を加速
GMは、かつて傘下にあった自動運転技術子会社Cruiseの知見を、新システムの開発に積極的に活用している。2024年12月にCruiseのロボタクシー事業を停止した際、GMは同子会社を吸収合併し、その開発チームを運転支援機能の開発に統合した。これに伴い、複数のCruiseエンジニアがGMに再雇用されたという。
Cruiseが保有していた技術スタックも、次世代の運転支援および自動運転プログラムに投入されている。これには、500万マイルの自動運転走行で学習したAIモデルや、仮想テストシナリオを実行するシミュレーションフレームワークが含まれる。これらの先進技術が、GMの自動運転開発を加速させている。
メルセデスを凌駕?GMが目指すレベル3の実現
現在、米国で市販されている「視線不要・ハンズオフ」システムは、メルセデス・ベンツの「Drive Pilot」のみである。これはSAEレベル3に分類され、特定の条件(カリフォルニア州とネバダ州の一部高速道路、低速の渋滞時)でのみ作動し、限定的だ。GMの目標は、これを凌駕するシステム開発にある。
GMのソフトウェア&サービス担当シニアバイスプレジデントであるバリス・チェティノク氏は、GMの視線不要システムが、地図情報を持たない高速道路でも機能すると説明した。システムが緊急事態や突発的な事象に対応し、ランプのオフ操作などごく一部の状況でドライバーの介入を求める程度に留まる。この機能は、現状のL3システムよりも汎用性が高いと言えるだろう。競合他社ではStellantisがレベル3システムを発表したが、投入を見送っている状況だ。
個人向け自動運転市場を牽引するGMの戦略
GMのグローバル製品担当執行副社長であるスターリング・アンダーソン氏は、自動運転車両のセンサーやコンピューティングコストが大幅に低下していることに言及した。かつてはロボタクシーのように高稼働率が求められたが、現在は状況が変わったと分析する。
GMは、大規模な製造能力と豊富な車両導入実績を持つため、低コストで高容量の個人向け自動運転システムを市場に投入する優位性を持つ。アンダーソン氏は、もし当初から低コストシステムと巨大な導入基盤があれば、個人向け自動運転車が優先された可能性もあると示唆。ロボタクシーから個人向け自動運転車へのシフトは、GMが消費者に寄り添った市場牽引を目指す戦略的転換と見られる。

