【解説】ゲームクリップでAIを訓練?空間認識AI「General Intuition」が拓く未来

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ゲームクリップを使い、AIに空間認識能力を学習させる新興企業General Intuitionが注目を集めている。同社はゲームプラットフォームMedalからスピンアウトし、膨大なビデオデータを利用して空間時間推論モデルを構築。人間のように未知の環境を理解し、自律的に行動するAIエージェントの開発を目指す。これは自律航行ドローンや最終的な汎用人工知能(AGI)実現に向けた重要な一歩とされている。

Medalから誕生!空間認識AI「General Intuition」とは

ゲームクリップ共有プラットフォームMedalから、フロンティアAI研究ラボ「General Intuition」が誕生した。同社はゲーム動画の膨大なデータ資産を活用し、物体や実体の空間的・時間的移動を理解する基盤モデルやAIエージェントを開発している。これは空間時間推論と呼ばれる概念を核とする。

General Intuitionは、Medalの持つデータセットがAIエージェントの訓練に適していると主張する。年間20億本、月間アクティブユーザー1000万人以上という規模は、TwitchやYouTubeの代替データよりも優れるとされる。これによりOpenAIは昨年後半、Medalを5億ドルで買収しようとしたと報じられた[1]

創業チームはKhosla Venturesなどから1億3370万ドルのシード資金を調達した。この資金は研究者とエンジニアの増員に充てられ、世界と相互作用できる汎用AIエージェントの開発を加速させる。特に空間認識能力の向上に注力し、将来のAI社会を牽引する存在を目指す。

ゲームクリップがAI学習を加速させる理由

ゲームクリップがAI学習の強力な手段となるのは、その独特なデータ特性にある。General IntuitionのCEOであるピム・デ・ウィッテ氏は、ゲーマーが動画をアップロードする際、通常は一人称視点を通じて多様な仮想環境での「知覚」を移転すると説明する。これにより、AIエージェントは現実世界に近い形で空間認識を深めることが可能となる。

さらに、アップロードされるクリップには極端に成功した例や失敗した例が多く含まれる。これらはAI訓練におけるエッジケースとして非常に有用であり、学習を効率的に進める上で重要な役割を果たす。このような「選択バイアス」が、求める種類のデータをAIに供給し、仮想環境トレーニングの質を高めている。

高精度なビデオゲームクリップ AI学習を通じて、AIエージェントは人間がゲームコントローラーを操作するように、視覚入力のみで空間内を移動し、行動を予測できる。このアプローチは、ロボットアームや自律航行ドローンなど、実際の物理システムへの応用可能性も秘めている。

未知環境を自律航行?空間認識AIの応用可能性

General Intuitionのモデルは、未訓練の環境でも理解を示し、その中での行動を正確に予測できる能力を持つ。AIエージェントは人間プレイヤーが見るものと同じ視覚入力から情報を得て、コントローラー入力に従って空間内を移動する。このアプローチは、ロボットアームやドローン、自律走行車といった物理システムへの自然な転用が期待される。

同社はまず、ゲーム内での応用と捜索救助ドローンに焦点を当てている。ゲーム分野では、従来のスクリプト型ボットを超える、適応型ボットやノンプレイヤーキャラクター(NPC)の生成を目指す。これにより、プレイヤーのスキルレベルに合わせて難易度を調整し、勝率を約50%に保つことでエンゲージメントと定着率を最大化する。

特に、デ・ウィッテ氏の経歴から、人道支援分野での応用も重視される。捜索救助ドローンはGPSが機能しない未知環境を自律ナビゲーションする必要があり、そこで空間認識AIエージェントの能力が遺憾なく発揮されるだろう。次の目標は、新たなシミュレートされた世界を生成し、完全に不慣れな物理環境を自律航行させることである。

AGI実現へ:ゲームAIが拓く空間認識の未来

デ・ウィッテ氏は、General Intuitionの核となる「空間時間推論」が、汎用人工知能(AGI)実現に向けた重要な要素だと指摘する。主要なAI研究機関が大規模言語モデル(LLM)の能力向上に注力する一方で、General IntuitionはLLMが根本的に欠くものを追求している。

人間は世界で起きることを記述するためにテキストを生成するが、その過程で多くの情報、特に空間時間推論に関する「一般的な直感」を失うとデ・ウィッテ氏は語る。General Intuitionのアプローチは、この失われた情報を補完し、真のAGIに不可欠な知覚と行動の統合を目指す。

同社は「ワールドモデル」の開発も行っているが、他社のようにワールドモデル自体を製品として販売するのではなく、AIエージェントや具体的な応用事例に注力する。これにより著作権問題を回避しつつ、ゲーム開発者の競合にならない形で空間認識技術を社会に実装していく。仮想環境トレーニングを通じて育まれたAIは、現実世界でも複雑な課題を解決する自律航行AIとして活躍するだろう。

参考リンク

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